ザクリと、刃が首に飲み込まれた
抵抗さえ感じさせず、まるでバターを切るかのように

バターみたいに綺麗な切り口をさらせば良いのに
コレは意味もなく赤い液体を垂れ流す
返り血は、ほとんど浴びる事は無いが、相手の首に回す手はいつでも真っ赤だった

赤い液体に濡れて――――――

 

 

――血塗られた手―――

 

 


暗い路地、男は歩いていた
月も星も見えない夜、かび臭い路地を歩くものは彼しか存在しない
静かだった
男は足音一つ立てず歩いていた
だから、その音は余計に目立ったのかもしれない
ポタリ・ポタリと何かが垂れる音

わき目も振らず前だけを見て歩いていた男が突然立ち止まり、振り返った
「何の用だ」
低い声だった
暗い路地に人の姿は見えない、しかし男は重ねて問うた
「何の用だと言っている」

男の視界の先、暗い路地の中でもなお暗い暗がりの中で誰かが笑う
「さすが、誤魔化せないか」
聞いた覚えの無い声に、男は少しだけ眉を寄せた
現れたのは自分より年若い少年
「俺、今日初めて『仕事』をしたんだ
でもどうも手際が良くなくて……先輩の手腕を見せてもらおうと思ってさ」
まだ、あどけなさが残る顔に屈託の無い笑顔を浮かべ少年は笑った

男は、興味を無くしたのか方向転換をし再び歩き出す
急いで後を追いながら少年は言った
「あんたさ、とりあえずせめて手袋はずしたら?気持ち悪くない?」

少年が指摘したのは男がつけたままにしていた手袋だった
ポタリ・ポタリと赤い液体が今だ滴っている
元が何色か判断できぬほど手袋は真っ赤に染まっていた
「どうせもう一人殺す」
男は足を緩めない
少年はそれに付いて行く

「え!そうなのか!?じゃあさ、邪魔しないから見てて良い?!」
興奮気味に、そう口にする少年を男はチラリと見た
たぶんソレと同時だろう
銀の光が一瞬だけ走ったのは

少年は何が起こったのかすぐには理解できなかった
チリと痛む首に手をやりった時の、ぬるりとした感触に驚く

「俺が毒を仕込んでいれば貴様は死んでる」

皮が一枚だけ切られていた

「もう少し力を入れていても貴様は死んでる」

薄い緑色の瞳に浮かんでいる感情を読み取れないまま少年は男を見上げた
黒く短い髪に薄い緑の瞳の男
少年から見ても、随分と綺麗な顔立ちの男だとは思った
ただ、『何か』が絶対的に欠けている

静かで冷静な目をしているのに
まるで血を求めているかのように何かに飢えていた

「その程度のチカラで俺の邪魔をするな」


と。
と、男が地面をけったかと思った時にはもう姿は見えなかった

少年は、そこで初めて呼吸をしたかのように何度も何度もゼイゼイと息をした
さっきまでは、何とも無かったというのに汗が後から後から出てくる
カタカタと身体は震えていた
少年は、震えを止めようと手を握りこんだときに自分が何故こうなったのかを理解した

怖かったのだ

関わりあいにならないほうが良いと
そう忠告してくれた別の仲間の言葉を今度こそ守ろうと少年は心に誓った


「あれが、噂の……『珊瑚の毒蛇』か……」

 


だが、その少年は誓いをすぐに破る事となる

まあ……不本意ではあったのだが

 

 

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