足音が聞こえていた
一つではない、二つ……

静かであるはずの深夜の異音に、毒蛇と呼ばれる青年は目を細めた

仕事を終え
後は与えられた住居へ帰ればいいだけの事
無視しても良かった

しばし、考え
小さく息を吐き、短いその髪をかき上げる
「騒々しいのは嫌いだ…」
面倒そうな声と言葉とは裏腹に、毒蛇の足は音の方へと向けられた
騒々しい足音に興味を引かれたと言えば引かれたんだろう
バタバタと、走る足音
逃げるものと、追うもののものだと言う事は最初から分かっていたんだから

細い通りを音も無く駆け抜け、ちょうど目の前を通り過ぎた見覚えのある影に眉を寄せた
いつか自分に付いてきたいと言っていた少年

並行して走り、静かに声をかけた

「何してる」
「っうわ!??」

酷く驚いたように、走り続けながらも身を軽く仰け反らせた

気付いてなかったのか……
「仕事」をする者としては最悪だなと思いつつ相手の言葉を待つ

「あ…えと……仕事した時…見られたみたいで……口封じしとかないといけないんで…」

言葉を変えよう
コイツは仕事には向かない
最悪どうのこうのという問題以前の事だ

しどろもどろで繋げられる言葉に、小さく溜息をつく
「お前は帰れ」
「え!?」
「足音が大きすぎる…騒ぎを大きくしたいのか?」

同じスピードで走っているにもかかわらず
足音をほとんど立てずに走る毒蛇に納得したのか、少年は歩調を緩めた
「でも…あの目撃者を……」
「俺がやってやる」

どうと言う事ではない
気が向いただけだ
少年を庇う気でもなんでもなく、逃げている相手に興味を感じた
こんな時間に
何のために歩いていたのか

了解したのだろう、隣にはもう少年の姿は無い
スピードを上げ
先を走る人物の後姿を捉えた
上手く方向転換をしてくるが、まだ甘い
そっちに回るなら先回りが可能だと、頭の中に入っているこの町の地図を確認する

右に折れ
身を屈め、音もなく走る
景色は後に後に流れていき、意味をなさないまま無かったものとなる

路地を越えたところで

「助けてくださいっ!!」
「!??」

細い腕にしがみ付かれた
「誰かにっ…!追われててっ!!」

そう言って自分を見上げてくるのは、まだあどけなさが残る少女だった
月明りのした、恐怖に濡れていた青い目に
何故だかドキリとする
どんな色より目に馴染んだ色である、紅い髪のせいだったのかもしれない

「お願…助、けて……」

ずるりと少女の腕が滑った
冷静になってみれば漂うのは濃い血の臭い
わき腹辺りにどす黒い染みがある

そうか、あの少年一応は手傷を負わせていたのか

出血しているのに、ずっと走っていたせいだろう
力なく、少女の身体は地面に倒れた
ゼイゼイと苦しげな呼吸だけが
今まだ彼女が生きている事を誇示していた

毒蛇は静かに見下ろしていた
どんな感情も浮かばない静かな瞳


ほおっておけば、間違いなく死ぬだろう


さて

どうする?

 

 

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