――アティ先生と和服――

 

 


やっぱり、断ればよかったかもしれない
アティは今更ながらにそう思う
どうせなら皆を集めてお披露目をしようと言い出したミスミを止められなかった時点で
もう無理な話なのだろうが

ここで待っておれと言われてから、どれくらい時間が経っただろう
基本的に誰も来ない倉庫の中
置かれた大きな鏡に映る自分は、まるで別人のようで心とも無い
薄い緑をベースにした、余り派手さは無い落ち着いた色合いの着物
もっと明るい色のほうが良いんじゃないかと言われたけれど
見せてもらった中で、アティが一番気に入ったのはコレだった

「うー…やっばり、あんまり似合ってるとは思えないんですけど……」
こつんと鏡を爪ではじき、アティは不安そうな顔をしている赤い髪の少女を見つめた
「何故、こうなっちゃったかな…」
答えてくれるはずも無いけれど、アティは鏡に問い掛ける
そうして時間をつぶす意味でゆっくりと今までの経緯を思い返し始めた

 

 


それはシルターンの村、風雷の郷にアティが寄った時のこと


「のう、アティ……シルターンの衣装を着てみるつもりは無いかえ?」
和やかにお茶を飲み勧めていたミスミは
面白い事を思いついたとばかりにアティににじり寄った
その瞳が輝いているのは、たぶん気のせいではないだろう

シルターンの衣装という事は、恐らくミスミが着ているものをいうのだろう
流れるような黒髪と陶器のように白い肌を持つミスミに
シルターン特有の「着物」は良く似合っている
でも自分に似合うとはアティにはどうしても思えないらしく
驚いたようにフルフルと首を横に振った

「わ、私には似合いませんよ……」

「そうかのぉ……」

諦めきれないのか身を乗り出してアティの顔をじいと眺める
肌も綺麗だし、赤く長い髪も、そんな彼女に良く似合っている
女であるミスミから見てもアティは器量の良い娘に見えた

それに出逢った頃に比べてずっと綺麗になったと思う
もしかしたらと思い、ミスミは目を細めた

「お主、想い人でも出来たのではないのか?アティv」

とたん
アティは青い双眸を丸くし、驚いたようにミスミを見つめ返した
同時にその顔はみるみるうちに真っ赤になっていく
顔が熱くなっていくのを感じながらどうにか誤魔化そうと思ったけアティだったが
目の前のミスミはニッコリと笑っていた
……妙に確信じみた笑顔で

「ほほ〜う、やはりな」
「なっ、なななな何言って…っ!」

言い訳をしようにも焦りすぎて
まるで口が回らないアティは、その態度が肯定を指していると
たぶん気付いていないだろう

「そう照れるでない、アティv好いた者がおるというのは悪い事ではないぞ」
ふふふと、ミスミは実に楽しそうに笑う
「それならやはり着物を着てみればどうじゃ♪男と言うのは、いつも見ない一面に弱いものえ?」
「そ、そんなものなんですか?」

ミスミの言葉に難しそうな顔をしながらアティは真剣に考え込んでいた
乗せられてるぞ、アティ。
と、ココに第三者がいたのなら口にしたかもしれない
風刃の餌食にならなければ……


「アティほどの器量なら着物も良く似合うぞv」
にこにこと笑うミスミにアティは不安そうな目を向ける

しばらく考え込んで

視線を泳がせて

やっとのことで、真っ直ぐにミスミを見た


「そ…れじゃあ……お願いします」
深々と頭を下げ、アティは頬の赤みが引ききらぬままミスミを見上げた
ぎこちないアティとは対照的に
ミスミは善は急げとばかりに立ち上がる

自分が持っている着物の中で、何が一番彼女に似合うだろうか
どれも、それなりに見栄えはするだろうが
どうせならもっとも似合う物を見繕ってやりたいとミスミは思う
アティの性格を考えれば、本来ならお願いしますなどと言わない事は分かっていた
恐らく彼女が好いている相手を想って了解したのだろう

その期待に応えてやらなくては


だが、その前に聞いておかねばならないことがミスミにはあった

「のう、アティ」
「はい?」
「お主が好いておるという男は、どこのどいつじゃ」
聞いておかねばならないというよりは、ヤジウマ根性のような気がしなくはない

「はいぃっ!?」
アティは今度こそ耳まで赤くなった
「いっ言えません!そんなのっ……!!」
「まあまあ、そう言わずに言うてみいvv」
笑顔なのに妙な迫力をかもし出すミスミに、アティは立ち上がれないままに後ずさった
「恥ずかしいですよっ!!」
「ここにはお主とわらわしか居らぬわ、他言はせぬよ。わらわにくらい言うてもよいじゃろ?」
言うまで逃がさぬぞ
といった無言の圧力に、冷や汗が流れた
この手の話で、ミスミさまから逃げようと思うこと自体無謀なわけですか……
半ば諦めたようにアティは小さく呟く

「船に乗っている人……です」
「ジャキーニではないよな?」

「あたり前じゃないですかっ!!」
どこをどう間違えば、そこに意識が行くというのか
そもそも、あの人は今陸暮らしではなかっただろうか
余りのショッキングなミスミの発言に、己の発言がさり気なく酷いことに気付かないまま
アティは溜息をついた
「私が、お世話になってる船ですよ……」

随分と絞られた、その範囲にミスミは満足そうに頷く
「あの中の誰かかw」
「言わないで下さいよっ!!」
「誰なのか気になるところだが、まあ追々聞かせてもらうとしようか」
楽しそうに笑いながら襖を開いたミスミに
何となく嫌な予感を抱きながら、アティは彼女の後に続くのだった

 

 

 

「はー…」
なんで、お願いしますって言っちゃったんでしょう…
思い出しても溜息しか漏れないというのに

そんな時だった
キイと乾いた音を立てて倉庫の扉が開いたのは――――

ミスミさまかと思い振り返ったアティだったが
先に見えた人影に、思わず鏡の後ろに身を隠した

どっ…どうしてこんな所にっ……!!

入ってきたのは、倉庫とは一番縁遠いと思っていた人物だった
そして、この姿を一番見せたいと思っていた人……見せるのを一番ためらっている人

「――……誰かいるの?」
警戒しているかのような、低い声だった
聞きなれた声にアティは引きつった笑みを浮かべる

やっぱり…見間違いじゃないですよね……そりゃあ

「あ、あの…私です、スカーレル」
姿を現すには抵抗があるので、声だけで返事をした
「……あら、センセだったの……どうしたの?こんな所で」
「いや…ちょ、ちょっと」

少し優しくなった声音にホッとしたけど
心の準備が出来ていない今のままでは
スカーレルの前にこのカッコで出て行く自信は無い
「ミスミさまが見せたいモノがあるとかで集まって欲しいって言ってたわよ?行かないの?」
「あ、あははは……」

それ、たぶん私の事です。スカーレル
何となく遠くを見たい気持ちにアティは駆られた

「さ、先に行っててください…私は後から行きますから」
「……何かあったの?センセ」
姿を見せない自分をいぶかしんでの事だろう
スカーレルの心配そうな声に申し訳ないと思いながら
何でもありませんと、どうにか口にした

「じゃ、顔くらい見せてくれても良いじゃない」
「そっ…それは〜……」
半分途方に暮れながら、天井を見上げる
出て行ったほうが良いですかね……いや、でも……
自分の格好を見直して、やはり止めておこうとアティが決意した次の瞬間
それは向こうからやってきた

「みーつけたっ♪」
「ひゃああっ!!!!」

すぐにアティの服装の変化に気付いたのか、驚いたようにスカーレルは目を見開いた
まじまじと眺められ、居心地が悪そうにアティは俯く
彼女にしてみれば嫌な沈黙が流れているようにしか感じられず
だんだん泣きたくなってきさえした

何か言われるのも怖いけど、何も言われないのも怖い

我侭だと思う

それでもどうしようもない

永遠にも思える沈黙は、感嘆交じりの溜息で破られた
「……アティ?」
「は…はい」
名を呼ばれ、そぉっと顔を持ち上げると
目を細め優しく微笑するスカーレルと視線が合った

「とても似合ってるわ」

たった一言
なのにそれだけで本当に嬉しくてアティは笑った
怖いと思っていた分、ホッとして目じりに涙さえ浮かべて
「あ、ありがとうございます……」
「泣くこと無いでしょ…?」
クスリと笑って、スカーレルはアティの頬に手を伸ばそうとした

 

 


バタンッ!!!

「準備が出来たぞ♪アティvv」

完全に凍りついた二人を前に、その原因は首をかしげた
「二人で何をしておるのじゃ?」

「いっ…いえっ!!!!わ、私たち何もしてません!!!!ね!?スカーレル!!」
「え…ええ」
完全に冷静さを無くしたアティと
今だショックから立ち直れてないスカーレル
そんな二人を、しばらく不思議そうに眺めていたミスミだったが
合点がいったのか
にんまりと意地の悪い笑顔を浮かべる

「なるほどなv」

「なっ…なるほどなって何ですか!!!!何でもないんですってば!!!!」
顔を真っ赤にして、わたわたと慌てるアティを尻目に
ミスミはスカーレルに視線を向けた
「アティはな、この格好を見せたい相手がおるんじゃとv」
ピクリと、スカーレルの形の良い眉が寄せられる
「へえ…?それは初耳だわ」
「ミっミスミさまッ!!!」

今にも食って掛かろうとする勢いのアティに、ミスミは耳打ちした
「こやつなんじゃろ?」
お主が、好いておるというのは

答える事が出来なくて、アティはパクパクと口を開いたり閉じたりした
顔は今までに無いくらい赤くなっている事だろう
でも、スカーレル以外だと思われるのは嫌だったから
浅くうなずく事で、どうにか肯定する

 

やはりなと笑い、彼女は再びスカーレルを見る
どことなく不機嫌そうだと感じるのは気のせいだろうか
「その見せたい相手っていうのが甲板にいる誰かってわけね?」
質問された鬼姫は答えず、ただ微笑を深くした

「大丈夫よセンセ、その格好素敵だもの男なら誰でもドキっとするわ」
行きなさいと道をあけるスカーレルに、ミスミが声を上げて笑った
スカーレルが不快そうに目を細めたのを
気付いているだろうに、ミスミはひとしきり笑った後楽しそうに言った
「男なら誰でも…か」

ふわりとキモノをひるがえし、ミスミは扉に手をかける
「良かったな、アティvこやつもドキっとしたらしいぞ♪」

「は…?」
「何ってこと言うんですか――――――!!!!」
とたん、スカーレルは目を丸くし
アティは居ても立ってもいられず頭を抱えてうずくまる


「ふふ…先に甲板へ行っておるわ。スカーレル、先導は任せたぞv」


任されたスカーレルはしばし呆然と

任せられたアティはしばしスカーレルの顔を見れないでいた


「……と、言う事はつまり……センセがその格好見せたかったのって……」
「う……ス、スカーレルに…です」

ここまで来て隠そうとしても無駄だろうと
アティは顔から火が出る思いで、俯いたままそう口にする

「……バカみたいねえ、アタシ」
スカーレルは自分が照れているのが気付かれないように片手で口元を隠した

「え!?そ、そんな事ないですよ!!」
アティの言葉に
スカーレルは、ただ静かに笑う

「いいえ、バカみたいよ」
自分が自分に嫉妬してたなんて……ね?

 


スカーレルは扉を開けると、アティに出るよううながした
自分の中だけで閉じ込めてしまいたいけどそうもいかないだろう

アティの手を取って歩き出したスカーレルは

とりあえずは短いエスコートを楽しむ事にした

 

 

 

END

 

□□□□□□□
何て言うかもう。ミスミさま最強
スカやアティより出張っているのは気のせいですか?気のせいだといってください(汗)

待たされる側はきっとたまったもんじゃないでしょう。
しかも、いらぬオマケ付きで登場したら機嫌悪そうだな〜カイル♪(楽しそうだな匠さん)
きっと私は、アティにコスプレさせたかっただけでしょう(変態)
と言うかスカアティだったら、もう書いてて何でもいいというか…!!!!(末期)
たまには鈍いスカーレルも良いかな?と思ったのですが
少し違和感。
精進いたします(汗)

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