――星明り――

 

 


「さて、これからどうしますかねー」
明日、自分の生徒である子供達に教えようと思っていた所を予習し終えたアティは
椅子の上で軽く伸びをした
時計を見れば、まだ九時前
寝るには少し早いけれど、だからと言って積極的に行動を起こすような時間でもない

しばらくの間、ぼんやりと窓の外を眺めた後
アティは、ほう…と溜息をついた


何かを忘れているような気がする


でも何なのかと言う事は、全くもってハッキリとしない
ずっと楽しみにしていた事を、忘れてしまっているような妙な虚無感
「…仕方ない、寝ますか」

もしかしたら明日になれば思い出すかもしれないし……
そう思い椅子から立ち上がるのと、ドアが乾いた音を立てたのはほぼ同時だった
小さなノックの音にアティは
はい、と返事をして扉を開ける

「こんばんわ♪センセ」
「あ、スカーレル…こんばんは。どうしたんですか?」
「ん〜…少し付き合って欲しいんだけど……良いかしら」

まだ眠くは無かったし、折角のスカーレルからの誘いを断る必要性も感じない
いつもなら訪ねてくる事が滅多に無いだけに
ある意味、貴重とも言える誘いだった
考えるまでも無いですよね……
アティは嬉しそうに頷いた


「で、どこに行くんですか?」
「甲板よ、甲板♪ちょーっと見せたい物があるのw」


廊下を通り、階段を上がる


機嫌が良いのか、階段を上るスカーレルの足取りは軽やかだ
珍しいですね…何かはしゃいでるみたいです。
アティはクスリと笑い、スカーレルに続く


甲板に出たとたん、ひやりとした涼しい風が頬を撫でていくのを感じた
室内とは違う流れのある場所
それだけでも気分が良くて、アティは声を上げる
「うわあ…良い風ですね〜!!」
「そうねv今日は天気も良いし、星を見るにはピッタリの日だわね♪」

「星を見る……ですか?」

何か、引っ掛かった
自分が「何か忘れている」事に関係があるような気がする
でも、やっぱり思い出せない
考え込むアティを知ってか知らずか、スカーレルは船のへりに腰掛けた
実に楽しそうに笑いながら

「そうよvセンセは知らないの?」

そう言われても、やっぱり思い出せない
何か…そう何か楽しみにしていた事があったような気が……

「今日が一番綺麗に見えると思うんだけど……今日はね……」
「!!!!!」

声は出なかったものの驚きに目を見開いたアティの様子に
それ以上は言わず、思い出した?と首をかしげた

『この日が、一番綺麗に見える』
そう、確かに自分もそう言っていたような気がする
まだ学校に行っていた頃に読んだ本
何百年かに一度だって話だから、絶対見るんだと友達に話していたはずではなかったか
そう確か……

「赤い星が一番近くなる日でしたよね!!?」

色々あって、忘れてしまっていた
興奮気味に、辺りをキョロキョロと見回す
海に面した場所なだけあり、光源は無くどの星も随分明るく見えた
チラチラと瞬きながら自分たちを見下ろしてくる彼らは
それこそ溜息が出そうなほど綺麗だった
なのに目的の星は見当たらない
「ええ…と……どこの方角に見えるんでしたっけ……」
「南よ」
上を見上げながら、あっちこっちをウロウロするアティを
スカーレルは楽しそうに眺めながら答える


「ホラ、あそこ」
ゆっくりと、スカーレルは海を指した
暗い海の方角、海と空の境界線より少し上に
強く赤い光を放つ星があった

「……すごい」
アティは溜息混じりに呟く
見たことの無い光
人工物のような目に痛いものじゃなく
だからといって、周りの星ほど柔らかな光ではない
写真とは全然違う本物の光だった
見たい見たいと思っていた星が、今、目の前にある
嬉しくて声を上げそうになった

「ん〜思ったよりも小さいのが難点よねえ……」
「そんな事ないですよ!!私、すっごく感動しました…!!」
目の前の青年は船のへりに腰掛けたまま、アティを見つめ微笑を浮かべる
「そう……」
「私、絶対絶対見ようって思ってたんですけど、今日だっていうこと忘れてて!!
スカーレルが教えてくれなかったら見れない所でした……ありがとう!!」

まるで子供のようにはしゃぐアティにスカーレルは眩しそうに目を細めた
浮かぶ笑顔は嬉しそうだったけど、どこか寂しそうにも見えた

「喜んでもらえたなら良かったわ……」
「はいっvv」

飽きる事無く星を眺めていたアティは、そうだ!と顔を上げスカーレルを見た
「折角ですから、ソノラやカイルさん達にも教えて上げましょうw」
名案ですよね♪と手を叩く、赤い髪の想い人に
スカーレルは、「興味ないんじゃない?」と苦笑を浮かべる事しかできない

「そんな事ないですよ、綺麗なんですからvヤードさんなら喜びそうですしね」
アティは、うんうんと頷いて楽しそうに笑う
「じゃあ、呼んで来ますね!!」
うきうきと、階段を降りようとした背中にスカーレルは溜息交じりで声をかけた

「……アティ?」
「はい?」


振り返ったアティの顔を、しばらく眺めていたスカーレルは小さく溜息をつき
なんでもないとヒラヒラと手を振った
しばらく、不思議そうにしていたアティも皆を呼びに降りて行く
その足音を聞きながら
スカーレルはもう一度溜息をついた

「センセって男心が分かってないわあ……」

 

瞬く事さえせず輝く赤い星を、スカーレルは興味が無さそうに眺めた
「まあ…良いか……きっと、このままが一番なんでしょうね」


ワイワイと、賑やかしい声が聞こえてくるのを遠くで聞こえた

 

 


赤い星は、やがて遠く消えていくのだろう
それでも空の下、変わらないでいて欲しいと思うものがある

それは彼女の笑顔

それは自分のこの立場

変わってなど欲しくは無い
もし、そうなれば崩れてしまうのは分かっているから


だからきっと、このままが――――

 

 


END

 


□□□□□□□□
だってホラ、火星が近付いたって聞いたから…!!(言い訳になってません)
まだまだ、お互いに「ほぼ無自覚」な話。
このままでいたいと言うスカーレルですが、そんなわけにもいきません。
とっとと、くっ付いてしまえ(笑)
星を見るのは大好きですvv
皆さんは火星を見ましたか?曇りがちで星が見えず、少し寂しいんですよねえ

何はともあれ、ここまで読んで頂いてありがとうございました(^^)

 

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