カイル一家を含み、島の面々がそのイベント事を知ったのは冬の寒い日のことだった

知らなければ暖かい部屋の中何もせずに過ごしただろうに
知ってしまえばあのメンツの事

楽しまないわけが無いのだ

 


――雪の降る夜のお祭り――

 

 

言い出したのは、事もあろうかお祭りには疎いと思われるヤードだった
「『名も無き世界』にはリインバウムもとは、また違った祭りが多くあったらしいですね」
以前立ち寄った港町の古本屋で手に入れたとか言う
巨大な辞書のような本をめくりながら、そうポツリと言葉を漏らしたのだ

「へえ〜♪ね、じゃあどんなお祭りがあるの?」
窓から雪が降らないかな〜と話をしていたソノラが目をキラキラさせながら振り返った
イベント事やお祭りに弱いのはソノラだけではなく
その場にいた全員が興味深そうな視線をヤードに向けた

「そうですね……今の時期ならば『クリスマス』というものとか……」
「聞いたこと無いわねえ…どんな事をするワケ?」
「何か薬飲まされそうな響きだよな…」
「そう思うのは貴方だけだと思うよ、カイルさん」

スカーレル、カイル、ウィルがそれぞれに口を開く
ヤードは小さく頷き本に視線を走らせた
「赤い……ええとコレは服ですかね。…を着て子供達にプレゼントを配ってまわるというお祭りのようですが……」
「誕生日とは別なんですか?」
不思議そうに問い掛けるウィルにヤードは頷いた

誕生日とは別に子供達がプレゼントをもらえるイベント……

皆が想像を膨らます中
今の今まで沈黙を守ってきた緋色の髪の少女が歓声を上げた

「楽しそうじゃないですか!!私、それやってみたいです♪
赤い服なら確か持ってたし…子供達へのプレゼントくらいだったら用意できますからvv」
それこそ自分が子供のように目をキラキラさせて
どんなプレゼントが良いですかねえ…などと、実に幸せそうに考えにふけっている

「じゃあ私、島の皆に教えてくるっvv」
意気揚々と最初に飛び出したのはもちろんソノラで
続き、カイルが楽しそうに笑った
「よっしゃ!!じゃあ、俺たちも何かしようぜ!!おい、ヤード
そのクリスマスってヤツにはプレゼント以外にやる事とか無いのかよ!!」
「じゃ、アタシはオウキーニに、その時ご馳走作ってもらえるように頼んで来ようかしらvv」
バタバタと騒がしく
人が出入りを繰り返す中、ヤードは1人お茶を飲みながらその様子を眺めた
自分の仕事は決まっている
今開いている本を読み進め、お祭りに必要な物をカイル達に準備してもらうのだ
それはある種適材適所とかいうものなのだろう

 

 

数日後
一体何を祝うお祭りなのか分からないまま、その日はやって来た
認識としては子供達はプレゼントを貰え
大人たちは騒いでいいのだろうといったものだ
いつも行なっている宴会や、酒盛りと違う事の方が少ないもの
ただ
確かにそれは、いつもとは違うお祭りで

「すごーい!見てよ、ヤードあれっ!」
「……ああ、サプレスの召喚獣達ですか……確かに幻想的ですね」
場所として候補に上がったユクレス村に点在する木々の間、葉の間
燃やされた焚き火がとどかない、暗く沈んだ森の中に
淡い紫の輝きを放ちながら
サプレスの召喚獣達は、楽しそうに舞っていた
木々を彩るそれは町に灯る明りとは違い、儚くて…それでいて優しかった
「ヤードさんが言っていた『くりすますつりー』を皆にお願いしたんです。喜んでもらえたなら良かった」
ふわりとわらうファリエルも、ほんのり紫の明りをおび
恥ずかしそうに笑う
食べ物を口に出来ないからと引け目を感じていたけれど
こうやって皆の役に立てるのは嬉しかったし、楽しかったのだから
「うむ。綺麗なものじゃ…わらわが鬼火を加えようと思うたが、その必要もなさそうじゃの」
「私達ロレイラルの力もね」
「―――っと!ごめんなさいね」
さまざまな場所で固まりながら、食べ物や飲み物を酌み交わしている間をすり抜け
ファリエル達の会話に加わったのはスカーレルだった
これだけ混み合っている場所で
一度たりともぶつからずに移動出来るのは、おそらく彼とキュウマくらいだろう
「おや、スカーレル…ヤッファさんと飲んでいらしたのではないんですか?」
静かに問うヤードに
そうなんだけど……と呟きながら辺りを見回す

「センセ、知らない?」

はたと、その場にいたメンツは顔を見合わせる
つい先ほど白い袋からプレゼントを出して、子供達に渡していたはずだった
子供達の所だろうと思っていた彼女達は、小さく首を振った
「子供達と一緒なのではなくて?」
アルディラの言葉にスカーレルはやれやれと溜息をつく
「子供達なら、私たちには付き合えないからってパナシェの家に行ったわ」
子供だけで夜道を歩かせるのは危ないからと探し人である彼女がそう言っていた
もちろん確認しに行ったけれどアティはそこにはいなかった

「心配…っていうわけじゃないけど、居ないと落ちつかないのよねえ」
参ったと言った風のスカーレルにヤードは楽しそうに笑う
「スカーレルはいつもアティさんと一緒にいますからね」
「あ〜やっぱりー♪」
「……ほほう、そういう事か」
「まあ…そうなの……」
「幸せにしてあげてくださいね」
ソノラ、ミスミ、アルディラ、ファリエルの順番に、興味深そうに口を開いた
「……ヤード、周りの子達に誤解を呼ぶような言い方はやめなさいな」
「おやおや誤解でしたか」
それこそ心外だとばかりに肩をすくめる友人に、自分の旗色が悪い事を悟ったのだろう
スカーレルは立ち上がり伸びをした
「さあて、迷子のセンセを捜さないと!」
ふわりと笑みを口元に乗せスカーレルは、その場を後にする
残された者たちは、くすくすと楽しそうに笑みをこぼしながら、その背中を見送るのだった

 

暗い場所の方が、星も、明りも、木々を縫う召喚獣たちの輝きも良く見えた
皆で楽しく笑いあうのも好きだったけれど
こうして、静かに眺めている事もアティは気に入っているらしかった
時間が無かったから大した物を準備できなかったけれど、嬉しそうにプレゼントを受け取る子供達の顔は
あったかくて、嬉しくて、こっちまで幸せ
名も無き世界のお祭りも素敵ですね、と独り言よろしく呟いた時だろうか
誰かが傍に立つ気配がした
「……?」
振り返れば見知った人物が、どこか疲れたように自分を見下ろしている
「やっと見つけたわよ〜センセ!」
「スカーレル?どうしたんですか?こんな所で」
「それはアタシが聞きたいわよ……こんな死角になる場所でなにしてるの、センセ」
焚き火の光が届かないということは
なるほど
確かにこの場所は向こうから、さぞかし見え難かった事だろう
「ああ…そうですね。すみません…綺麗だったから見ていたくて」
笑って、アティは森を指差す
つられるように視線を向け、そうしてスカーレルも笑った
「確かに綺麗ね……でも、ここは寒いわよ?」
そう、言って
座り込むアティに
ふわと薄手のコートを羽織らせた
「それあげるわ、来てなさいな」
「え!?で、でも悪いですよ!!スカーレルが寒くなるじゃないですか!」
「良いの良いの、よく見てごらんなさいな?それアタシがいつも着てるのじゃないわ」
返そうと思わず掴んだコートにアティは言われたとおり視線を落とした
確かにそれは今までに見た覚えの無いコートで、しかもこれはスカーレルには少し小さめだった
私にぴったりみたいですよね、どちらかと言うと
ええと、と考え込んだアティをどう思ったのか、スカーレルは苦笑交じりで低い位置にある彼女の頭をなでた
「センセへのプレゼントよvこの前寄った街で見つけたの
いつ渡そうか考えてたんだけど、今日のお祭りがちょうど良かったから」
優しく見下ろす笑顔に、アティはしばし呆然と見上げていた
言葉全てを飲み込んで理解して

「あ…ありがとうございます」

そうして彼女は笑った、それこそ子供のように
頬を赤らめて嬉しそうにプレゼントであるそれの感触を確かめながら袖を通す
それは想像していたよりも、ずっとアティに似合っていた
「似合うわね〜センセv贈りがいがあるわ♪」
「そ、そうですか?あはは、まさか私が貰えるなって思っても見なかったです……あ!」
照れながら頭をかくアティが、気付いたようにスカーレルに向き直る
良い事を思いついたと言わんばかりに
「じゃあスカーレルにはこれプレゼントしますv」
「わ…!ちょ、ちょっと!!」
アティが今の今まで、その頭に被っていた服とセットになっているんだろう赤い帽子
それを頭の上に乗せられ
戸惑ったようにスカーレルは数歩下がる
身長差というものを少し考えてくれれば良いと思いながら
無理な体勢で被せられた帽子の位置を直した
「似合いますよ、スカーレル!」
まあ…嬉しそうに笑う彼女を見ると悪い気はしないのだが
「ありがとう、アティ」

そう言って笑った時だろうか

白いものが、目の前を掠めた
「あ…雪、ですね」
眩しそうにアティは空を見上げる
「ええ…冷えるはずねえ……そろそろ戻る?」
「そうですね、心配してるかもしれませんし」

歩き始めたスカーレルの隣に並びアティは提案する

「少し遠回りして帰りません?」

「…どうして?」

「雪もゆっくり見たいですから」

「……ふふ、可愛いわねえセンセvじゃあそうしましょうか」

 


後から後からと言うよりは、ほんの少しそのお祭りに花を添えるよう
雪は静かに降っていた

 

 

 


END


□□□□□□□□□
どれだけ久しぶりにかいた、サモン3小説だ私よ…!
いやはや村の名前忘れるやら、キャラの名前忘れるやら、あげく一人称を忘れる暴挙をしました(オイ)
しかもクリスマスネタだし(とほり)まあ、冬だし。良いか(←ダメ人間)
オールキャラにしようと思いましたが、どうもキャラを掴みきれませんでした……
もう一回プレイしないと…でも貸してるし(+_+)

なんかリハビリ?リハビリっぽい小説ですかね?
スカアティを書こうとして撃沈しました〜そのうち書き直すかもしれません……

 

ここまで読んで下さってありがとうございます〜v
ええ、こんな久々なサモの小説を読んでくれたあなたは神様ですw

 

 

 

 


 

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