のどか、一言で言えばそんな日だった
春の陽気は暖かで
風も強くなく
日の光に暖められた空気を無粋にかき回すこともせず
風でさえただ穏やかに流れる日

「のどかだよなー……」

カイルが、ヤードの入れたお茶に口をつけようとした時
その「のどかさ」とはどこまでも、かけ離れた音が響き渡った


ズガ―――――――――――ン!!!!!!

「ブ―――――――――――――ッ!!!」(お茶を吹いた)

船ごと揺れ、続いたのは鈍い爆音
口に含んだお茶が見事な放物線を描き、机および床に広がるのを眺めながら
ヤードはお茶をすすった
「……お約束ですねえ……」

穏やかな日は、穏やかなまま過ぎる事は無い
何時から成り立っていた公式は、今日と言う日も一寸の狂いも無く
それを遂行したようだった……

 

 

―― negative answer ――

 

 

「おい、ヤード!!あの爆音はどの辺だ!?」
自分の大事な船にもしもの事が合ってはと慌てるカイルに対し、ヤードはどこまでものんびりと口を開く
それはもう、カイルに対とって何処までも絶望的な事を
「おそらく船の中でしょう、距離もそうある感じじゃないですから、誰かの部屋…もしくは廊下――」
青ざめていくカイルにヤードはほんの少しだけ言いにくそうに言葉を続ける
「そしてあの衝撃と力で言うなれば……召喚獣、しかもかなり高位の物ですか……」
おかしい、どう考えてもおかしい
イスラやオルドレイクの脅威はとうのまえに去っているはずなのだ
召喚獣をこの船にぶつける物があるはずはないし、仲間たちがそんな高位召喚獣を呼び出す必要性があるとも思えない
自分の目で確認するのが一番なんだろうが
心の底から、かかわらない方がいいと思うのは何故だろう


「……様子を見に行かないんですか?怪我人が出ているかもしれませんよ?」
ちゃっかりとプラーマのサモナイト石を所持しているヤードが立ち上がるのを見て
カイルもしぶしぶ立ち上がった
……しかし嫌な予感は収まらない
この若さで船長として海を渡って来た男である彼の勘はそうそう外れる事は無いというのがまた嫌な所だった
「……いくぞ?」
嫌な汗をかきつつ、カイルは扉を開けた
扉を開けたら何もなかったという最悪の結果はとりあえず回避していたのか
被害はほとんど無く、変わった所があるとすれば―――――
「大した被害は無いみたいですねえ…まあ気になるのは吹っ飛んでる先生の部屋の扉くらいですか」
「いや、充分だろ!!」

どうしてお前はそんなに冷静なんだと突っ込みかけたが、なけなしの理性でどうにかそれを押し留めた
結局の所は他人事、そんな所だろう
この我らが客人が本気で憤慨する事と言えば、あの緑の葉っぱ(お茶)に関してだけなのだ
小さく息を吸い込み
覚悟を決めたカイルは、そうとアティの部屋を覗き込んだ
「…………」
立ち込めているのは煙だろうか視界はほとんど無い
「せ、先生…?いるのか?」
とりあえず声をかけてはみるものの返事は無かった
息を飲み一歩を踏み出そうとした時
人影が部屋から飛び出した
視界の端に見えた赤に、その人物が誰かを認識する――――――しかし

「スカーレルの馬鹿―――――――っ!!!!!!」

らしくないセリフを吐きながら、脱兎の如く駆けていく彼女に声をかける事など出来なかった
「……何なんだ?一体」
呼び止めようとして行き場を失った手をそのままにカイルは呟く
それに答えるものは無かったが

「……おや?」
アティが走り去った廊下を呆気に取られたまま見つめていたカイルは、何かに気付いたらしいヤードの言葉に
視線を彼に移した
「どうしたんだよ?何かあったのか?」
何の事も無いように、彼はついと部屋の中を指差した
「被害者がいました」
「は!??」
収まりかけた煙の中から見えたのはよく見知ったはずの人物が倒れ付した姿だった
「ス、スカーレルっ!?」
信じられない、いやそもそもありえるはずが無い
この状況から考えられる事はただ一つだったが、そのただ一つがどこまでも信じられない
頭を抱え、どうにか事態を収拾しようとしていたカイルに
またもや冷静な声が届いた
「あー…ヴァルハラですか〜アティさんも手加減が無いですねえ……」
「お前不思議に思わないのかよ!!」
思わず突っ込めば、プラーマのサモナイト石をとりだしながら何のことも無いように
ヤードは頷いた
「確かに、ヴァルハラを召喚するほど腹を立てていたのにもかかわらず、部屋への被害を最小限に抑える
なんてマネが出来るのは驚きですよね、さすがセイバ……」
「俺が言いたいのはそういうことじゃねえ!!!」(怒)

無駄な漫才が繰り広げられそうだったそこに、ある種話題のタネだった人物の声が挟まれた
「人が瀕死だって言うのに近くで騒がないでよ、騒々しい」
よろりと身体を起こしたスカーレルは
やっぱり直撃だったのか所々が焦げていた
「おや、瀕死で済んだんですか?スカーレル」
意外そうなヤードにスカーレルは、目はそのままにニコリと笑う
「ええ機械耐性の装備のお陰で、蛇の生殺しにも似た状況に陥らされるハメになったわ」
自分なら確実に昇天していただろうな
などと考えながら、口を開いたのはカイルだ

「そもそも、お前がどうしてヴァルハラをぶつけられなきゃいけねえんだよ。何か怒らす事でもしたのか?」
先生の気質を考えて
感情的に召喚獣をぶっ放すなど、そうとうなものだった
しかも去り際の発言も余りにもらしくなく
いつもならこの手の問題には介入したがらないカイルだったが、そういうわけにもいかない
「……」
しばしの沈黙

「アタシは……悪くないわよ」
不機嫌そうに、だけれど視線は反らさないままスカーレルは言い放った
それ以上はいう事が無いと言わんばかりに、今だ瀕死状態の彼はヤードに回復を急かしているようだった

……必殺の一撃で今度こそオトしてやろうか
いや、今はとりあえず優先するべき事があるよな……
心配なのは瀕死状態のご意見番より、どこに言ったとも知れない先生の方だ
「先生探して来るから、そっちは任せたぜ!ヤード」

急いでアティが消えた方角へ走っていくお節介な船長を見送りながら
ヤードは溜息をついた
「まあ……確かに珍しいですよね。あなた方にこの手の喧嘩は」
目の前の青年は答えず壁に背をあずけ考え込んでいるようだ
「良ければ話してもらえませんか?あなたが悪くないんだったら私に話しても構わないでしょう?」
「……」
翡翠色の目を細め、浅く溜息をつきスカーレルはヤードを見た
「大した話じゃないけど……?」
「構いませんよ」

そうしてスカーレルの話をヤードが聞き始めた頃―――――

 

 

波打ち際に座り込みアティはしょんぼりと俯いていた
つま先ギリギリまで白い波がやってきて、帰っていくさまをただ無作為に眺めて
だいぶん落ち着きはした
「……スカーレルの馬鹿」
それでもやっぱり怒りは収まらなくて帰る気にはなれない
でも……
ついカッとなってヴァルハラを召喚してしまったけれど
魔法防御が高くない彼は誰かに回復してもらえたんだろうか
とか
キチンと帰らないと、後でソノラに怒られるんだろうな
とか
思わなくは無い
だけれど立ち上がる気力は涌かなかった

はあ…と溜息をこぼした時
聞き慣れた声が波音に混じって耳に届いた
「……カイルさん?」
顔を持ち上げ目に入るのは、確かに遠くからかけてくるカイルもの
ああそういえば飛び出してくる時にすれ違ってような気も……と思うがイマイチはっきりしない
まあ探しに来てくれたというのはそういうことなんだろうとは思えた

「先生…!!全く、探したぜ?」
「すみません…カイルさん」
覇気の無い彼女に、小言を言う気も起きないのかカイルは隣に腰を下ろした

太陽は高く上空に留まり
海風は気持ちいいものだったから、そこに居ること自体は苦痛ではない
しばらく無言のまま海を眺めていた二人だったが、それが当然のことであるかのようにカイルが口を開いた
「……で?」
「はい?」
視線は海に向けたまま
まるでお互いに独り言を話しているかのような光景は少しばかり不思議だ
「どうして召喚獣を……」
「あの、すみません。ついカッとなっちゃって……あ、あの修理とか後片付けとかは私が……」
「だー!!そうじゃなくって!!何が理由で喧嘩になったんだよ?しかも先生がカッとなる事だろ?想像もつかねえし」
「……そうですよね…船、少し壊しちゃったわけですし。カイルさんには話しておかないと駄目ですよね」

少しばかり間違った律儀さなような気がしたが、取りあえずは話を聞くべきだろうと
カイルは先をうながした

そのころ、船の中に残された二人の話は思いのほか早く終っていた

 

「……ま、そういうわけよ」
怪我も回復してもらい、焦げた服を着替えたスカーレルは溜息交じりで肩をすくめた
「…………」
「そうやって無言になられそうだったから言うのは嫌だったのよねぇ」
「コメントに困りますよ、それは」
あきれたと言わんばかりに、溜息をつきヤードは続ける
「そういう時は、言ってあげたほうが良いですよ?」
どこかの誰かに引きずられたらしき随分なお節介だと自分自身でわかるのか、浮かぶ表情はどことなく複雑だ
「そういうものかしら?」
「そんなものです」

しかし―――とヤードは思う
そんな話を聞くために、アティの後を追った某船長は何だか可哀想だ……と

 


そしてそんな可哀想(になる予定らしい)某船長はと言うと

「―――――って聞いたんです」
「……は?」
「だから…その。スカーレル、私に好き…だとかほとんど言ってくれないから
本当に私の事が好きなのかどうか不安になって……」
かああっと顔を赤らめ言葉を続けるアティにカイルは少なからず頭痛を感じた

もしかしなくともコレはあれではないだろうか?

「私のこと、好きですか?って聞いたんです」
「お、おう…」
「そしたらスカーレル、答える必要は無いって……」

相談という装丁はしているもののどう考えてもそれは「ノロケ」と言われるものだった
もしかしなくてもそうである
どよんと落ち込んでいるアティにフォローを入れるべきなのだろうが、どう言って良いのか分からず
とにかく明るくカイルは言った
「た、たぶんそれはあれだ、先生!すっ…好きなんだから答える必要は無いって意味なんだろ!!」
笑顔が引きつるのを感じながらも笑顔を崩さない自分を心底褒めてやりたくなりながらアティの肩を叩く
「帰って聞いてみろって、先生。そう聞けば答えてくれるぜ」
「そう…でしょうか?」
疑う事の無い青い瞳で見上げられて、声も無く何度も頷いた

「うん、じゃあ帰って聞いてみます…!ありがとう、カイルさん!!」
パタパタと砂を払い笑う彼女の笑顔はいつも通り可愛らしいものだった
……が素直に喜べないのは何故だろう
そう考えてはみたものの答えは出ないままだった


アティに並び、船への帰路を歩む途中
同じように連れ立って、こちらへ歩いてくる影にカイルは立ち止まった
ヤードと……スカーレルか
「あれ…?どうしたんですか?」
不思議そうに首を傾げるアティに進行方向に見える人影を示せば、あ!と小さな声を上げ
カイルの後へと回り込んだ

「お、おい先生!隠れてどうするんだよ!!」(汗)
「だって……」


「ああ、カイルさん丁度良かった、スカーレルがアティさんに話があるようなので探していたんですよ」
「ヤ、ヤードさんにもご迷惑をお掛けしたみたいですみません……」
にこやかに声をかけるヤードに対し、カイルの後からほんの少しだけ顔を覗かせ
申し訳無さそうに頭を下げた
そんなアティにスカーレルは気付かれぬよう浅い溜息を吐き
手を伸ばした
「アティ、いらっしゃいな」
びくと身を縮ませ、人に慣れない猫のようにおずおずと顔を覗かせる
「話があるの」
「は、はい……わ、たしも聞きたい事…が」
小さく消え入りそうな声で、そう答え意を決したようにアティはスカーレルの前に立った
「アタシからで良いかしら?」

ふわりと笑うスカーレルの笑顔はとても優しくアティの緊張を和らげた
つられるように口元を綻ばせ了解の意を示す
「はい、スカーレルからで良いです」
「ふふ…ありがとう。さっきはアタシが悪かったわ」
素直に謝られるとは思ってなかったのだろう、青の瞳を丸くしてじいと見上げてくる瞳はくすぐったかった
「アタシの言い方が不味かったんだってヤードから言われたわ……本気じゃないならいくらでも好きだって言えるけど
本当に好きになった相手には言い難いものなの」
言葉にするのは簡単な事だけれど……簡単な事だからこそ言葉にはしたくなくなった
まるで自分の想いが簡単で、軽いモノに思えたから
「本当は、そう言いたかったのよ?」
くすくすと照れ隠しだろうか、頬を染めて笑うスカーレルに
彼とは日にならないほど顔を赤らめたアティは幸せそうに笑った

 

 

 

 

「……なあ、俺達帰っても良いんだよな?」
「むしろ帰るべきでしょう」
「一件落着なのに、なんか素直に喜べないのはなんでだろうなあ……」
「簡単な話ですよ?骨折り損のくたびれもうけ。この格言が全てを物語っているでしょう」


てくてくと帰り道を急ぎながら


二人は疲れたように溜息を吐いた

 

 

 

 

 

END

 

□□□□□□□□□
過去20000ヒットを踏んだ防波堤にプレゼンツ!!
リクエスト内容は「甘い」話だったはずなんだが、何なんだろうね?これ(聞くな)
スランプ中に書くだとか、途中までしあげて間を空けるだとかしたせいだと思いたい感じ
ギャグにはできんよ?と言ってたわりにギャグテイストなのはご愛嬌です
書いたらこうなったといった感じですね。
今まで色々なスカアティを書いてきたけど、ここまで馬鹿な二人を書いたのは初めてだと自分では思います
ううう、難産だったわりには絶妙な出来(滝汗)
う、受け取っていただければ幸いです。返品された際は、ここをもうちょっとこんな感じでと
具体的に仰ってください
私たちの仲なので遠慮なく!!!

あ、最後になりましたが、題名には意味はありません(待て)
自分でも訳を覚えてないくらいですので^_^;

ではでは、申告リクエストありがとうございました…!!

 

 

 

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