某月 某日 寒い早朝

スカーレルは彼にしては珍しく、まだ小鳥の声が聞こえて間もない時刻に目を覚ました
ベットの中で身じろぎをし
両の手を伸ばし、ひとしきり伸びをする

目覚めは実に爽やか文句の付け所が無い

ただ、どことなく違和感を感じる部屋の中
ぐるりと見渡せば、その理由はすぐに分かった
視界に入れたのは見覚えのある、白い白いマントと帽子

ここは自分の部屋ではない。
あの、天然はなはだしい可愛い先生の部屋だ

だがそこで再び疑問に思う

何故、自分がここにいるのか
よもや間違いを?!とも思ったが、それにしては自分の着衣の乱れが無いし
彼女の姿もここには無い

夢かしら?と軽く首をかしげた時
まだ縛ってない髪がはらりと流れた

その色を見て

その見覚えがありすぎる赤い髪を見て

彼もとい、見た目彼女は甲高い悲鳴を上げた

 


――雪降る夜の早寝早起き――

 

 

「どーした!!先生!!?何があった!!!!?」

悲鳴を聞きつけたのだろう
バンと扉を壊しそうな勢いで、叩き開け(何だその開け方)カイルが飛び込んできた
続き
ソノラ、ヤードも姿を現す

皆、まだ夢心地だったのだろう
パジャマのままで、どこか眠そうだ

どうしたもこうしたもあったものか
スカーレルは、随分と細くて小さい自分の手を眺めながら、心の中で一人呟く
軽いパニックを起こしかけていたスカーレルはとりあえず、冷静に事の事態を考えてみようと
集まった皆に、ニコリと笑いかけた
とりあえずこいつらに説明するのは自分で把握できる所まで把握してからにしよう
「なっ…何でもない……んです。ゆ…夢見が悪くて……」

そう言うと、ソノラは脱力したように深く溜息をついた
「なあんだ…脅かさないでよね〜先生」
「まあそう言うな。たまには皆で早起きってのも良いもんだろ」

そう言って
部屋を出て行くカイル達を見送った後
スカーレルは化粧台にある鏡の前に立った

「……わかっちゃいたけど、こうやって見ると破壊力あるわねえ……」
睨みつけるようにこちらを見ている、赤い髪の少女
こちらが右手を上げれば、むこうはすんなりと左手を上げた

………鏡って残酷だわあ


とりあえずは着替えて、このどうしようもないであろう事実を皆に
出来うる限り冷静に伝えなくてはならないだろう
そう、とりあえずは………

着替えって…この身体センセのなんだけど…(滝汗)

さすがに不味いと思う
が、しかし
センセだっていい歳をした女性だ
それを考慮に入れると、パジャマのまま船内をうろつくのもいかがなものか
ガックリと項垂れてみても事態は前進も後退もしはしない

「どうしろって言うのよ……」

 

 

それから十数分後

 

 

どうにか着替え終えたらしい赤い髪の少女は疲れたようにゼイゼイと荒い呼吸を繰り返した
「めっ…目をつぶったままでも結構、いけるものよね……」
そりゃあ少しは見てしまったかもしれないが
それは不可抗力
今どこにいるのかも良く分からない、この体の主もきっと許してくれるだろう
「さーてと…気を取り直してカイル達に、この事説明しないと……」
朝っぱらからスッカリ疲れきった身体に鞭打ち、スカーレルは立ち上がった
にしても……
アタシがココにいるとなると……センセはどこにいるのかしらねえ……?

答えは酷く単純

スカーレルはそれを直後、知ることとなる

 

「あっれー!?どうしたの、スカーレル!イメチェン?髪下ろしてるだなんて珍しいじゃない!!」
よく通る、ソノラの声にスカーレルは青ざめた
恐らく廊下でのやり取り、聞き間違いなどするべくもない距離だろう
アタシがココなら、センセは……
「あ――!!もうっ!!どうしてもっと早く考えないのよ!アタシはっ!!」
思いっきりドアを開け
声の聞こえた方向へ走った

本来の自分の部屋である扉の前に自分が立っていた(ややこしい)
「あ…えと……ソ、ソノラ……こ、これはですね……」
おどおどと、自分より背の低いソノラを見つめながら、怯えたように笑うその様子に
スカーレルは確実だと頭を抱える
自分が自分を見ていると言うのは、不思議な気もするが何より気持ち悪い
「どうしたの〜スカーレル。何か変だよ?」

そりゃあ変でしょうよ(アティの中のスカーレル突っ込み)

どう間に入ろうかと思案していた時
事態はさらに、よろしくない方へと動いた
「どうした、ソノラにスカーレル!んなトコに突っ立ってよ」
「もうすぐ朝食の準備が出来ますから、いつもの場所に集まってください」
「あ!カイルさんにヤードさん!!」

『……は…?』(ソノラ、カイル、ヤードはもり)

嬉々として声を上げた見た目スカーレルに、三人は気持ち悪そうな視線を向ける
しかも、それだけならまだしも
「聞いてくださいよー!!ヤードさん〜!!!」
と、言いながらヤードに抱きついた

半分泣きが入っている分、たちが悪い

「え!うわ…ス、スカーレルっ!?」
突然の出来事にパニックを起こしかけつつも、どうにか相手を引っぺがそうとするヤードに
アティ(中身スカ)は目頭を押さえた
男が男に抱きついている様(しかも片方は自分)を、まさかこの目で見ることになろうとは……

寒い以外の何物でもない

「ああ〜!!!もう!!いーかげんにしなさいよ!あんたは――――――!!!」
寒さに耐え切れなくなったアティ(中身スカ)は叫んだ
皆の視線が自分に集中する事も構わずに……と言うか気にしている余裕すらないのだろうが
ものすごいスピードでカイル達に近寄ったかと思うと
「え?あ、きゃああああぁぁぁぁ……」(←遠くなってる)
寒さの元凶を小脇に抱え走り去った

 

「……さっきの…先生だよな?」
「そ、そのはずだけど…」
「……スカーレル、持ち上げて行ったよな?」
「逞しくなりましたねぇ……」

「そもそもスカーレルもどこか変だったよね?」
「悪いもんでも喰ったんじゃねえのか?」
「本当に、目覚めたのかもしれませんねえ……」(何にだよヤード)

取り残された三人が、あ然としつつもそんなコメントを交し合っていた事は
話題の二入は知るよしも無いのだった

 

 

――そのころの二人はと言えば……

 

いつもの二人の語らいの場であった甲板で、アティは肩で息をしながらスカーレルを下ろし
近くの樽に腰掛けた
「まあったく……センセってば、アタシの身体で気持ち悪い事しないでよ」
藍色の目を細め仕方なさそうに溜息をつく様子はアティの姿だとはいえ、どこかが全く違っていた
「え?わ…私?あ…アタシの身体って事は、スカーレルですか!?」
緑色の瞳を見開き、パチクリと瞬かせる様子のスカーレルも然りではあるが
二人を知るものがその光景を見れば
さぞ不気味な光景に見えたに違いないであろう

「そうよ、センセ。朝起きたとたんコレ……冗談じゃないわよねえ…センセもでしょ?」
「そうなんです……うう、自分とお話してるだなんて何だが不思議な気持ちですよ〜
しかも中身はスカーレルなわけですし」
「…そうよねえ」

涙目で、しかも敬語で喋る自分との遭遇は
そりゃあ未知の生物との触れ合いレベルにアタシには(今現在)衝撃的だけど

なんだか自分も泣きたくなってきたアティ(中身スカ)だったが
スカーレルの方が気付いたように顔を上げた
「ところで…何でこうなったんでしょう……」
「アタシ達、昨日とか変わった事なんてしてないわよねえ……」

うむむと二人で腕組みをしながら考え込んだその時
ドタドタとまるで何かから逃げるかのように、船内から足音が響いた
船内……と言う事から考えて敵襲では無いはずなのだが、足音から感じられる雰囲気は尋常ではない
思わず船内と甲板を繋ぐ扉に、両者は目をやった

「先生ー!!スカーレルーっ!!!!!」
扉が壊れるんじゃないかと思われる音を立てて飛び出してきた小さな少女は
とりあえず手近なスカーレル(中身アティ)に抱きついた
ガタガタと震え、彼女らしくも無い怯えの色が瞳に浮かんでいる
様子がおかしいソノラに、アティ(中身スカ)は眉を寄せ声をかけた
「どうしたのよ…ソノラ……」
「ああああ…っ兄貴とっ…ヤードがいきなり…いきなり……っ!!」


「ソノラ!!何も逃げるこたーないだろうが!!」
「そうですよ…そんなオバケでも見たような顔して……失礼じゃないですか」
開け放たれた扉から現れた二人に、
アティ(中身スカ)は
ああ、確かにこれなら逃げたくもなるだろうと頭痛でも感じたのか片方の手を頭に持っていく
この二人も入れ替わったわけね……


「う…うわあ……礼儀正しいカイルさんって何か怖いです……」
「オイ!?そりゃあどういう意味だ!?スカーレル!」(怒)
「皆を呼び捨てにするヤードってのも新鮮ねえ…」
「そんな所で感心してもらっても困るんですが、アティさん」(汗)

「あ〜!もうわけ分かんないよ〜!!」(同感だソノラ by匠)


「とりあえず、黙りなさいっ!!あんたたち!!」
アティの大声に、騒ぎまくっていたカイルとヤードは沈黙する
静かになったのを確認し、アティは自分を指差しながら妖艶に笑った
「いい?アタシはスカーレルよ」

はい?といった表情でアティとスカーレルを除くメンツが名を出された彼の方に視線を向ける
「あの…わ、私がアティなんです……ヤードさん達みたいに入れ替わっちゃったらしくて…」
少し困ったように微笑して首を傾げる仕草は確かに自分たちが知る先生のものだ
自分達の身でも起きた事だから疑う事も馬鹿らしい
理解しかねるように顎に手を持っていきながらカイルは呟いた
「何かの呪詛でしょうか……とにかくこんな状態ではぐれが襲ってくれば不味いですね…」
その言葉にアティが頷く
「そうねえ…敵に素手で突っ込んでいく召喚師が見れるでしょうねえ……」

「それは俺の事か?せんせ…じゃなかったスカーレル」
気に触ったらしく、眉を寄せヤードはアティの肩に手を置く
「あ〜ら、誰もカイルの事だなんて言ってないわよ?」
「てめえ…喧嘩売ってんのか?」
「ヤードに姿が変わっても、随分強気でいられるものねぇ」

実際なら見られる事の無い
アティvsヤードの争いの火蓋が気って落とされようとした時
スカーレルが二人の間に割って入った
「止めてくださいっ!!二人とも。そんな事してる場合なんかじゃないんですよ!?」
「そうですよ……ずっとこのままだと、敵襲以前に不気味ですし……」
浅く溜息をつきカイルはスカーレルの言葉に便乗した
知的なカイルが一番不気味だと言う事に果たして彼は気付いているのかどうかは分からない

「とにかく…一度ラトリクスで検査してもらった方が良いでしょうね……」
もしかしたら、この不気味な現象について何か知ってるかもしれないですし
と繋げるカイルに一同は頷いた
出来得る事なら、一刻も早く自分の身体に戻りたいと言う所は同じらしい
そもそもアティの中に入っているスカーレルとスカーレルの中に入っているアティにとってのダメージが
性別が違う分深刻だろう

そうなれば善は急げ、と言う事でソノラを除くカイル一家はラトリクスに向かうのだった

 

 

 

 


ラトリクスの中心部
アルディラが住む場所でもある一室に通され、四人は不安そうに顔を見合わせていた
話せば話すほど不気味なので、とりあえず黙っていようと
提案したのは誰だったか
沈黙に耐え切れなくなったスカーレルが口を開こうとした時
シュンと音を立てて扉がスライドした

「こんにちわ、災難だったわね」
事情はクノンから聞いているのだろう笑うのを堪えているかのような顔でアルディラは口を開いた
「アルディラさん……こうなった事情をご存知なんですか?」
カイルがそう切り出すと
アルディラは軽く吹き出した
やはり敬語のカイルは面白いらしい
「んもう!!笑い事じゃないのよ?どうなの?知ってるの?知らないの?」
「ふふ。悪いわね、アティ…じゃなかったスカーレル」
持ってきたファイルを開きアルディラは続けた
「知ってるわ、そういう病気があるのよ」

知っていると言う言葉にホッとしたのか、スカーレルはホッとしたように息を吐いた
「でもね」

一瞬だけ緩んだ空気が緊張を帯びた

「治療法が無いの」


静かな部屋に、アルディラの言葉だけが妙に生々しく響いた

「ちょっと待ってくれよ…じゃあ俺達は……」

……一生このまま?
寒い冬ではあったが、ここまでの極寒の空気をカイル一家は感じた事があっただろうか
全員が顔を真っ青にして顔を見合わせているさまを見て

今度こそ耐え切れないとばかりにアルディラは笑い出した
避難がましい目を向けてくる一同に
笑いすぎのせいだろう、にじんだ涙を拭いながらアルディラは言った
「ごめんなさいね…あんまりにも真剣に受け止めてくれたものだから可笑しくって……」
ヤードがムッとしたように一歩前に出る
「あんたなあ!俺達が真剣だってのに冗談言ってる場合かよ!!」
「だからごめんなさいって……」
「それじゃあ…本当の所は治療法ってあるんですか?」
スカーレルの言葉に、眼鏡の奥の目を細めながらアルディラは頷いた
「ええ、実はそれって―――――――」

 

 

ただの風邪なのよ

 

 

「は?」
「か、風邪??」

「ええ、以前にもはやった事があったの。だからしばらく大人しく療養してればすぐに治るわよ」
ニッコリとアルディらは笑った。今度は冗談ではないらしい

「そうですか…なら安心しました」
カイルも笑うとスカーレルもつられて微笑んだ
「なら帰って、おかゆでも作って皆で食べましょう♪」
「まあ…二、三日だったら、このどうも動かし難い身体も耐えられるか……」
ヤードも浅く頷く

何か、騙されたような気持ちになりながらアティは溜息をついた
「この島じゃあ随分と変わった風邪がはやるのねえ…」
「そうよ。前の時はヤッファとマルルゥが入れ替わって大騒ぎになったわ」


それは見たくない


身体と精神はバラバラだったが皆同じ事を心に思った


「でも、この風邪って結構伝染しやすいのよ……またはやったりするのかしらねえ……」


あんたは融機人だから気が楽でしょうね……とアティは突っ込みたかったが
酷く楽しそうなアルディラに、その元気さえなくし一同はラトリクスを後にするのだった

 

そのあと

何年かぶりの風邪が、大流行したとかしてないとか

 

 

 

 

END

 

 

□□□□□□□

18795ヒット!語呂合わせでのはにわさんのリクエスト人格入れ替えネタでした!!
すでにスカアティですらありません。
というか、メチャクチャすぎて自分で分かんなくなりました(オイ)
漫画で描けば、どうにでもなるシーンが小説だと説明しないと誰が喋ってるシーンなのか
分かりません(滝汗)

ちなみに、風邪は大流行した方向で(オイ)
つか、色々無理があるような気がしますが、頭が天気の匠さんなので
サラリと流していただけるとありがたいです(>_<)
ちなみに題名は思いつきで意味は何もありません(なら付けるなよ)

はにわさんへのリクエストに答えられたかどうかは実に微妙かと(ブルブル)
おおお…すみませんギャグには向かない人間のようです
語呂より、少し泣ける話にしようかと思いましたが無理でした(わびしくて泣けそうですが)
コレに懲りずまた遊びに来てやってください
申告リクエストありがとうございました!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!(^^)

2004 1、23

 

 

 

 

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