黄昏の海に出て

2人は二度ともう巡り会えないの

 


――黄昏の海――

 


気付きたくも無かったのに
どうして気付いてしまったんでしょう

いつも視線で追ってしまってるからだと……分かっていた


島の一件も落ち着き
また海賊として航海をしているカイル一家の世話になり始めてから
もう二ヶ月ほど過ぎようとしていた
ヤードさんは、島に残ってしまったから居なかったけれど
それでも本当に楽しかった

いつも通りの夕食後の風景に何かが足りないような気がして
アティは何の気なしに辺りを見回した

カイルが持ち出してきた戦利品を見せてもらって
その時の武勇伝見たいなのを聞かせてもらって
カイルもソノラも楽しそうだった
何も変わってないはずなのに……おかしいですね……

「あ……」

それに気付いてアティは声を上げた
皆の輪から外れて、壁に背をあずけほとんど減っていないグラスを手に
こちらを眺めているその人物―――
愛しそうな、優しい瞳だった
でも
どこか遠く、懐かしいものを見るかのようだった


ああ……行ってしまうんだと

分かってしまった

 

これは彼が意識的に開いていった距離
多くを哀しまないように、多くを傷つけないように
少しずつ離れて
自分がいなくなることに対する穴を埋めようとでもするような
彼が「いなくなった後」に早く慣れてしまえるように

こんなに……早く……
ずっと続くわけが無いと知っていた、知らないわけじゃなかった
気付いたとたん
足元から崩れていくような危うさを感じた


……怖い……っ


ソノラ達の笑い声が、遠くで聞こえ
楽しかった気分は嘘みたいに冷えていく
フと…スカーレルの視線が私の視線とカチリとあう
ほんの少し驚いたように目を見開いて、そして苦笑いを浮かべた
白くて綺麗な手を伸ばして、おいでと言うように軽く揺らす
出来るだけ何でもないように装ってスカーレルの前に行くのに酷く苦労した
足が今にも震えそうだ
声が震えそうだ
……泣き出してしまいそうだ

「ここじゃ何だから……出ましょうか?」

ゆるりと、壁にあずけられていた細身の体が動く
うながすスカーレルに、何も答える事が出来ないままアティは甲板に出た

 

月が高い

広い空に雲はなくて

海も空も、夜の闇に溶け込んで月明りの下
冴え冴えと照らし出されていた
波の音も風の音も……あまりにも静か

アティは小さく何度も深呼吸を繰り返した
落ち着かなければ……スカーレルは察しが怖いくらいに良いから
このままでは困らせてしまう
彼を困らせる事だけはしたくない
海を眺めたまま、自分に背を向けているスカーレルに
ワザとらしくならないように、声が震えないように注意しながら声をかけた

「あの…スカーレル……もしかしたら……」
「――船を下りるわ」


たった一言で、世界が終るような気がする
いや、実際に終るのだろう「彼」を内包した……今確かにあるこの世界は

スカーレルはゆっくりと振り返り微笑んだ

優しい微笑
でも迷いは無い
「次に、立ち寄る港でお別れよ。日が昇る少し前……カイル達には悪いけど何も言わないで行くわ」
緑の双眸をすうと細めて口元から笑みを消す
細い…それでも男の人と分かるスカーレルの手が頬に伸ばされ軽く触れた
「アティ……大好きよ……今も、たぶんこれからもずっと」

視界がぼやけそうなるのを堪えて
アティは笑った
「私も……です」

次に立ち寄る港は予定では二日後到着する
あと…たった二日
それまでは、彼の前で笑っていたい

「……さて…もどりましょうか?センセ。この季節の海風は身体に悪いわ」
「あ、はい!でも私は…もう少し海を見ていたいですから」
スカーレルは何か言いたげではあったが、そう…とだけ言葉を紡ぐと
乾いた音を立てる扉をくぐった

姿が見えなくなって、足音が聞こえなくなったのを確認して
アティは誰も居ない甲板で膝を付いた
「…っう……ぇっく……」

声を殺して、誰にも気付かれないようにアティは肩を震わせた
己の身を抱くさまは寒さを耐えているかのようでもあった
波の音と風の音しかしない甲板で
少女の小さな泣き声は
止める者も無く、いつまでも月の下で聞こえていた

月は高い、雲も無い

静かな静かな夜の海

あまりにも寒々しすぎて……声も出ない

 

 

 

 

金の明りが海に落ちて、夏の風が途切れた

おびえる2人に、ただよせてかえす水音

 

 

 

二日間など早いもので

何も知らないであろうカイル達は意気揚々と陸に下り
足りなくなった物を買い足し、戦利品となる品物を換金していた
夕方近くに着いた船は今日を含めて二日間だけ停泊し
そして海に帰っていく
予定はそうなっていた。そしてそれは予定通りとなるのだろう
荷物と一緒に一人の人間を
この岸辺に残して


アティは、夕日が沈む海を港から眺めていた
強い強い太陽の光は、身をひそめて
ただその温かさだけを
立ち並ぶ人々や建物に注いでいる

とても綺麗なのに、淋しいなんて感じるのは
沈むって分かってるせいなのだろうか

「どうしたの?センセ、こんな所で」
「夕日を……見てたんです」

明日また見れる太陽と、明日にはもう見られない隣にたたずむ青年と
その二つを見比べてアティは笑った
もう、笑う事しか出来なかった
涙は枯れてしまったのかもしれない
好都合だ
と、アティは思う

船を下りる彼が見る、最後の自分が泣いてたりしたら
きっと心配をかけてしまう
きっと気にしてしまう
彼は彼自身が思っているより、ずっと優しい人なんだから

「スカーレルは、夕日って好きですか?」
何となく、会話を途切れさせるのが嫌で言葉を続けた
「そうねえ……あんまり好きじゃないのよ……この赤さが駄目みたい」
そう言いながらもどこか楽しそうなスカーレルに首をかしげると、クスリと笑われる
「でも、今日のこの夕日は忘れないと思うわ。良い意味でね」

あなたと見る、最後の夕日だから

言葉にはされない「最後」が、少しだけ痛かった
明日の早朝……正しくは今夜いなくなってしまう大好きな人
傍に居て欲しいなんて我侭は言えなくて言いたくなくて


私は曖昧に笑う事しか出来はしない

一緒にいることが嬉しいはずなのにこんなに辛いのは
もう会えないと分かっているから
綺麗な夕日の淋しさの意味は分からなくても
それだけは何よりも良く分かっていた

 

 

 

何を犠牲にして、ここまで来た道も忘れ果てたの?

「さよなら」告げるための優しさだけ残して


ゆるゆると時間は過ぎていった
多くのものにとってはいつも通りの、彼女達にとっては最後の
どう過ごして良いかなんて分からない
最後だからとスカーレルの傍に居れるほど別れは受け入れられなくて
でも
部屋で泣き伏すのも何か違う気がして
アティは皆が集まる部屋のイスに腰掛け、時計を眺めていた

一人、二人と部屋に戻ってしまい
気付けば自分一人だけ
時間を確かめれば、ああなるほどと思った
こんな時間なら……誰も居なくて当然ですよね
きっと皆眠っている

……私と彼を除いて


テーブルの上で組んだ手がカタカタと小刻みに震えた
「あれ……?おかしいな……」

あんなに泣いたのに
どうしてまだ涙が出るのかな?
ぱたぱたとテーブルの上に透明な水滴が落ちるのを
アティはただぼんやりと、その様子を眺めていた


どれくらい
テーブルに落ちる水滴を眺めていただろう
キイと、背後で音がしてアティは顔を上げた
久しぶりに聞いた時計と自分の呼吸音以外の音
何の音だろうと、随分と緩慢になっている頭をどうにか働かせる

ああ、扉が開いた音に似ていたかもしれない

振り返って―――――アティは驚きのあまり目を見開いた

 

 

 

 

 

 

 


宵闇が訪れて、もうどれほどだろう
スカーレルは甲板から見える、もうほとんど無い港町の明りを眺めていた
「いい頃合よね……」
思ったより、未練があるのか声はどこか寂しげだ
小さく溜息をつき
歩き始めようとした時
甲板と船内とを繋ぐ扉が、静かな夜には似つかわしくない大きな音を立てて開いた

「……カイル?」
毎度、扉は大丈夫なのかと心配になるほどの勢いで出入りする彼そのものの開け方に
スカーレルは驚きよりも、まずは苦笑をその口元に浮かべる
「おう。こんな時間に奇遇だよなあ?スカーレル」

偶然ではないだろうに……
挑むようなその視線をスカーレルは何事もないかのように受け流し
そうねと、短く答えた
カイルは気分を害したと言わんばかりに眉を寄せる
この男も分かっているのだろう
場の雰囲気を読んだり、相手に気を使う事が得意ではないと思っていたが
仲間にはそうでもないらしい
「何となく、そろそろだろうって気はしてたぜ」
「…世話になったわね」


無理矢理止める風でもないカイルにスカーレルはほんの少し首をかしげた
そんな事を言う為に
この男は自分が甲板に上がってくるのを待っていたのだろうか?
だとしたら
随分細かい事にまで気が回るようになったものだ

だがスカーレルの考えは杞憂に終る事となる
カイルはどこまでもカイルらしかった


開かれたままの扉の向こうに視線を向け何かを掴もうとするかのように手を伸ばした
「出て来いよ、先生」

扉の向こう側から
おずおずと姿を現した緋色の髪の人影に、瞳を大きく見開く
心底驚いた
まさか今一度彼女の姿を目にする事が出来るなんて……
かける言葉だって用意もしないままアティを目の前にして、スカーレルは何も言えなかった

カイルは声を押し殺したような低い声で
琥珀色の双眸を真っ直ぐにスカーレルに向けたまま口を開いた
「先生を連れてけよ。スカーレル」
「っ…カイルさん!?」

スカーレルよりも先にアティが声を上げた
酷く驚いた様子で、隣に立つカイルを凝視する
アティにしてみれば信じられないような言葉だったのだから、あたり前なのだろうが
突然現れて、腕をとられて、連れてこられて
これなのだから

その様子にスカーレルは目を細める
「それはセンセが、望んだ事なんじゃないんでしょう?」

「お前がっ!!そう仕向けたんだろうがっ!!!!」

暗く静かな海に
不釣合いな大きな怒鳴り声が響いた
「先生が優しい人間だって分かってて!
自分の都合を押し付けて、お互いで納得した気になりやがってっ!!」
「それはカイル!あなた自身の見解じゃないっ!!」

スカーレルにしては珍しい大声に、アティはびくりと身をすくませる
そんな言葉で引くつもりも無いカイルは、そう切り返されると分かっていたのか
鼻で笑い、言った

「じゃあお前。アティの言い分聞いてやった事あるのかよ?」

何も言わず
好きなように言わせた事があるって言うのか?

口は開いたが、スカーレルから言葉は漏れなかった
少しばかり手を震わせ
辛そうに眉を寄せ唇を噛んだ
何も言えなかった。言う資格すらない
その通りなのだから

 


「―――――っ!止めてください!!カイルさんっ!!!」
さらに続けようとしたカイルを止めたのはアティだ
深い紺色の双眸に涙を浮かべ
自分が責められてるかのように、必死にカイルの腕を掴んでいた
「私は……私は大丈夫ですからっ!!」
ぼろぼろと透明な雫がこぼれ、白い頬をいく筋も伝った

寂しくなんて無いですから

辛くなんて無いですから

怖くなんて無いですから


「スカーレルを……一人で行かせてあげてください……っ」

酷く悲痛な……声だった
カタカタと肩を震わせ深々とこうべを垂れるアティに、カイルは言葉を失い
スカーレルは口を開いた
とても小さな声音ではあったけど

 

「さよなら…アティ」

 

 

後を追う事も出来ぬほど、素早い行動
音もなくスカーレルは闇の中溶けて見えなくなっていった

「…ちくしょうがっ……!!どうしてこうなるんだよっ!!」
力任せにカイルは壁を殴りつけた
目の前の、この少女を悲しませる事だけはしたくは無かった
それだけだったのに

不甲斐ない自分を責めていたカイルだったが
アティは顔をあげ、笑った
まだ涙が頬を伝ってはいたが、その笑顔は作り笑顔じゃない事は分かった
「カイル…さん。ありがとうございました……」
「…俺は何もしてねえよ」
「私、キチンとお別れできましたから」
目を細めると、また少し涙が零れた
「さよならって……」

いつも通りだったから
また明日会えるような、そんな気がどこかでしていて
それにすがって最後の言葉も満足に交わせなかった

でも

最後の言葉は確かに届いて

 

堪らなくなってカイルはアティを抱きしめた
「!?…カ…カイルさん!?」
「泣けよ」
「え……?」
「泣いちまえ、好きなやつが居なくなって辛くねえヤツなんていないんだ」
例えそれが、お互いが望んだ別れでも
「無理なんてするな」

「何…言ってるんですか?カイルさん……無理なんてしてませんよ……」
声はもうすでに泣いていて
すぐにそれは完全な嗚咽に変わった
肩に手を添えるだけにし、カイルは海を見つめていた
あの男殴ってやればよかったと、ちょっとした後悔が頭をよぎる
辛くないわけが無い……
なのに本当に優しい少女だった

金色の光の筋が海に走り、カイルは目を細めた
朝焼けだろう
黄金色の光が海を船を照らしていく
黄昏色の海は一部始終を確かに見ていたはずなのに、ただただ静かなだけだった

 

 

 

 

どんなに波を重ねて思い出を叫んでも

あなたの居た岸辺には、もう帰らない

 

 


「ふう…少し食べすぎちゃいましたねー」
「そうよねー。ここのエビ料理おいしいから、つい食べすぎちゃって〜」
「お前ら、そんだけで良いのか?小食だよなー」
「兄貴が大喰らいなだけでしょ〜!」

この港町では、三日目の朝
小さな食堂でアティ、ソノラ、カイルは朝食をとっていた

本当であれば昨日の間にこの港を離れる予定だったのだが
あの人と最後に来た町の事を、もう少し見ておきたいというアティの我侭を
ソノラおよびカイルは快く了解した

ただ、港に海賊船を停泊させたままでは目立つので
三日目の朝
自分たちを迎えに来るようにと部下に伝え
海の只中に船はあるのだが

もう一品エビ料理を頼もうかと悩んでいるソノラを見ながらアティはクスクスと笑う
暗い影は落ちないものの、やはりそれはどこか寂しげに見える

ソノラは溜息をつきメニューから視線を上げ口を開いた
「先生……どうせなら、探してみたら…?」
きょとんと、アティは紺色の目を丸くする
「誰をです?」
「だぁかぁらぁ!スカーレルに決まってるじゃん!!」

名前が出ると、やはり少しだけ辛そうに眉を寄せたが
彼女は笑ったままだった
「いいんですよ」
「先生…」
心配そうに自分を見るソノラにアティはぶんぶんと大げさに手を振った

「違いますって!ソノラ!!そんな心配そうな顔しないで下さい……私、この町を眺めて歩きながらずっと考えてたんです」
目を細め、口元に穏やかな微笑を浮かべながらアティは続けた
「船から下りるって言うのは…スカーレルの望みで、私はスカーレルを困らせたくなかったから
それで良かったって思いました……でも……今度は私の我侭を聞いてもらおうって」

いつになるかは分からない
本当に訪れるのかも分からない
もし、遠くいつの日か彼に逢う事が出来たら
「私の傍に居てくださいって……」
「……」
二人が呆けたように自分を見ている事に気付いたアティは照れたように笑い
立ち上がった
「先に出ますね!少し町を歩いたら港に戻りますから、そこで」
「あ…う、うん」
「少しくらい遅れたって構わねえよ、ゆっくりして来な」
はいと、笑って手を振って
一歩一歩歩いた


逢えなくても
確かにあなたは、この大地のどこかにいて…この空の下どこかにいて

赤いとあなたが言っていた、その白い手を洗い終えたら
約束なんかしなくても待ち合わせなんて決めなくても
きっと逢える
ううん。絶対に逢えるって――――

深呼吸をして、店の扉を開いた

 

信じてますから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思ったら、そこに居た

「……あ」

「……え?」

目の前の通りを通り過ぎようとした人影に思わず声を上げた
向こうもそれに気付いたのかこちらを見る
お互い顔を見合わせて、しばしの間固まった
あんな別れ方をして
まさかこんな風に再会するなどとは露とも考えていなかったのだから
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない

どう声をかけたものだろう……
グルグルと思考を巡らしているのは相手も同じらしく微動だにしない
しかし
先に行動を起こしたのは向こうだった
背をむけ逃げるように走り出す
思わず、その背中を見失わないように追いかける
何故後を追ったのかとアティに後々問えば、逃げるからと答えただろう

何かを考えての行動ではない
衝動的な行動だった

「ちょ…スカーレルっ!待ってくださいよ!!」
「待てって言われて誰が待つのよ!というかそもそもセンセ!もう出航したんじゃなかったの!?」
「あ、いえ。一日延ばしてもらったんです」
「何で、そんな事してるのよー!?」
緊張感の無い会話と追いかけっこは、しばし続いたが
かたや元暗殺者、かたや召喚師である
少しずつ遠くなる背中に、アティは思わずポケットの中にあるサモナイト石を取り出し
胸元に抱きしめた
……焦りすぎたせいだろう、何のサモナイト石かさえ確認せずに

「ヴァルハラ」(機械属性最強召喚獣)

凄まじい轟音と共に迫り来る攻撃…!!

「ちょっとセンセ!!殺す気っ!!?」
「ご、ごめんなさいっ!!」

人通りの無い裏路地である事が幸いして、怪我人は出ていない
急いで送還したものの
「ヴァルハラ」はスカーレルにとってあまり嬉しくない人物を呼び寄せる事となった

「先生っ!?敵でも出たのかっ!!?」
「先生大丈夫!!?」

スカーレルの前方
わき道から飛び出してきた人物にスカーレルは思わず立ち止まった
飛び出してきた人物……カイル、ソノラも驚いたのだろう、目を丸くする

やっとの事で追いついたアティは呆然として立ち止まるスカーレルの腕を掴み
捕まえたと息も切れ切れに呟いた
そこで初めて、カイル達の存在に気づいたんだろう
アティも目を丸くした
スカーレルはといえば自分の間抜けぶりを責める気力すら失って
空が青いわねえ…と天を仰いでいた

「……スカーレル」
目の前まで歩いてきたカイルに、スカーレルは視線だけで返事をした
直後
見事なまでに鈍い音が辺りに響いた
一切の手加減抜きでカイルがスカーレルの頭を殴りつけたのだ
「いっ…痛いじゃないっ!!」
話を聞く気も無いのか、頭を押さえるスカーレルの肩をしっかり掴み
その後ろに立つアティにカイルは笑いかけた

「俺は、もう一回こいつと会う事があれば殴ってやろうと思ってたんだ……
先生も次に会ったら言う事があったんだろ?言ってやれよ」
「え……でも……」

さすがにこれは、予想外の展開で
こんなに早くまた顔を見れるとは思ってなくて
それにコレではスカーレルが可哀相過ぎやしないだろうか

そんなアティを後押しするかのように
私もとばかりにスカーレルの腕にしがみ付いたソノラはニッコリと笑った
「言っちゃいなよ♪先生v折角また会えたんだしさ」

しばらく悩んだ後
アティは意を決したように顔を上げた
一日ぶりに見るスカーレルの顔は何故だか懐かしくて、泣きそうになる
そして
次に会う時、言おうと思っていた言葉を唇にのせた

 

「私の傍にいてください……」

 

 

 

 

 

 

 

黄昏だけを抱いて、あの日の波はもう深い海の底

悲しみもしらない青い夢を見て眠っている

 

 

 


空と海との間に輝くのは、金色の太陽
沈みかける日に照らされる黄昏の海は、いつか見た風景とよく似ていた
いや……似ていた、というのは正しくない
今こうして、見つめているのだから

金色の海原を、船は滑るように進んでいく

「あ〜あ。あんなに悩んで答えを出したのに、また船に逆戻りとはねえ……」
「私だって…あんな風に逢うなんて思っても見ませんでした」

もう二度と来ないかもしれないと思っていた、スカーレルが居る空間に
アティはくすぐったそうに笑ってそう言った

「でも…本当に迷惑だったなら……」
「止めてちょうだい?センセ。アタシが自分の意志で戻ったの」
隣にいるアティを見、スカーレルは小さく笑う
「あなたの隣に居たいと……あの時アティを見てそう思ったのはアタシよ?」

決心して船を下りたはずだった
でも逢ってしまえば揺らぐような決心だったと今更ながらに思う
この手が綺麗だなんて到底思えない
けれど……彼女の隣でなら、自分が思うよりずっと早くこの赤を落とせる日が来るのではないかと
そう思う
そう思いたい

「待っててくれる……?」

自分が自分を許せるようになるまで
自分が気後れもせずに、太陽の下に出れるようになるまで
心から、この手で抱きしめられるようになるまで


アティはクスクスと可笑しそうに笑う
「スカーレル。私、ずっと傍にいるんですよ?」

ほんの少し緑の瞳を見開いて
そうしてスカーレルはひどく穏やかな笑顔を浮かべた
今まで浮かべた事のないような、影が見当たらない優しい笑顔
「そうだったわね」

 

 

少しずつ

氷が溶けていくように

黒い何かだとか赤い何かだとかが消えていく

そんな幻を見た


ああ、そうか……

彼女は自分の手で汚される事も無く

むしろ自分を―――――

 

 

 

「ねえアティ、少し顔を上げてくれない?」
「どうしました?スカー……―――――――――っ!??」

顔を離して、可愛らしい顔を見てみれば夕日以上に真っ赤になって
「な、なななななななっ!!」
「もーvセンセったら可愛いんだから〜♪」

 

 

黄昏に染まる海

忘れる事は無いと、別れ間際の言葉を繰り返す

 

 

忘れられるはずは無い


それは自分の愛しい人とよく似ていて


それを自分は愛しい人とこれからも共に眺めるのだろうから

 

 

 

 

 


END

 

□□□□□□□□□
しゅ―――りょ―――――!!!!
やっとここまで漕ぎ付けました…!!しかし皆様に言っておかねばならない事が…!!
……ごめんなさい〜!!!(土下座)
この前の話で、雰囲気ぶち壊しだからと流血を無かった事にした女がやることじゃ
ありませんでした。妙に途中ギャグっぽいし(滝汗)

この終わりはこの話を製作当初から決まってた事だったのですよ(遠い目)
防波堤と語り合い
私は別れる所で終わりにしようと(それもどうよ)思ってたのですが。
「あっさり再会させてくれ」と頼まれたのが事の始まり
脱力して良いじゃないかとのたまわれました…まあ頂きものにある防波堤の小説を
読んでいただければ
そんな彼女の性格は分かっていただけると思います。

つーか。無駄に長かったわりにこんな落ち…
納得されなかったらどうしようとブルブルしております…!!(ぶるぶるぶる…)
途中で「ああ、別れて終るのか…」と思い脱力された方…!是非ご一報を!!
謝りますから(いりません)
で、でも、ハッピーエンドです!バッチリです!!(言い訳)

ちなみに「黄昏の海」も歌です♪
私の中でベストスカアティソング!!似合いますよ〜vv
途中途中に書いてある歌詞から、それは判断できると思うのです(^^)

それでは、ここまで読んで頂いてありがとうございました…!!
少しでも楽しんでいただければ幸いですv

2003 11,28

 

 

 

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