気付かなくて良い事に気付いた

そう感じるのは気付いてしまったからこそであって


――はなかんむり――

 

任務のために移動するのは舗装された道を避ける事が多かった
大っぴらに姿を見られるのは問題だったし
はたから見て、目を引く人物ばかりなのだから

さわさわと風が吹き
不釣合いに暖かく降り注ぐ陽光にシンクは舌打ちをしたくなった
別に天気に格段興味があるわけじゃない
ただ晴れた日は得意ではないだけ
自分の先を行くリグレットは、それすらも気にならないのか前しか見ておらず
(彼女の場合見えているもの自体が少ないんだろう)
ソファーに腰掛けた変態にいたっては
座ってる乗り物自体が邪魔だというのに、巨大な日傘を括り付けているのだから見れたものではない
陽光もうっとおしいが
今現在の状況で言うなれば、この目の前の男以上にうっとおしいものは無い
もう一度
先程とは違う意味で舌打ちを繰り返そうとした時

「……あ……」
自分よりやや後方、狼に良く似た獣の背に座る少女が声を上げた
「……」
そういえば居た
存在感が無いまでに喋らない上に、視界にいない
シンクにしてみれば忘れるには充分の事象
大して気になったわけではない

声がした
だから振り向いただけ

自分の顔の大部分を覆う仮面越しにアリエッタを見れば
慌てて俯き
何事も無かったかのように獣を促し歩き出した
また嫌味でも言われるかと思ったか
立ち止まってないで歩け……まあ自分が言い出しそうな事だ
わざわざ突き詰める事でもなかったから、すぐに思考は中断させる
振り向いたときと同じように前を向こうとして
ひゅうと、髪や服をはためかせ過ぎて行く風に視界を持ち上げられた

微かに顔を上げて目を細めた先に広がるのは―――
「……。」
ふわりとした陽光
街道ではないものの草の丈は短く歩きやすい、自分が認識したのはそれだけ
していたのはそれだけ
なのに小さな彼女は、様々に彩る色彩を見つけていたんだろう
名前なんて知らない小さな花々が彩る野原が
そこにあった

「……ちっ…」
今度こそ、何の遠慮もなく舌打ちをして
イライラを反映させるよう足を速め、リグレットに追いつき提案した
ここで少し休ませてよ、と
訝しげな顔をしたものの
いつもなら自分がそんな事を言うことは無いからか
要求はすんなりと通った
煩い変態はとりあえず無視をして、ポツポツと申し訳程度に佇む木に背をあずければ
ふいと影が目の前に現れる
あの少女だと分かってはいた
ただあのいつも泣きそうな顔を見ると、またイライラしそうだったから
目を閉じたまま口を開いた
「何か用?」
「……っ」
何かを言おうとして
空気だけが流れる気配
いつもそう
びくびくおどおどと自分の意見も言えない
特に自分みたいなタイプの人間が苦手なのか、まともに喋っているところすらそうそう見ない
今日も同じだろう
やがて無言のまま立ち去るんだろう
無感情にそう思う

「…あり、がとう」

本気でそう思っていたから
木々の間でさえずる小鳥のような声が、誰のものなのか一瞬分からなかった
久しぶりに驚いて
拍子に開いた眼差しの先で
「お花、みてくるね。ありがと、シン…ク」
くすぐったそうに少女は笑っていた
ふわりと身を翻す彼女の服がひらめく
真昼のこの陽光のように、行く先に咲く花のように、今の彼女の笑顔のように
それは楽しげだった

「……別に、お前のためじゃないよ」
強がりに似た言い訳は、言葉にするタイミングを大分逃していた
腹が立っただけなのだ
自分がしたい事に対して何も言わない少女に
わざわざ気付いてしまった自分に
そうしてそれを無視する気にはなれなかった自分に
だからこその舌打ち
もしそれは何故だと問われれば
この身体を構成する際に使われたヤツの一部のせいだと答えるだろう
抜け殻の自分の身にあるのはそれだけだ
他には何も無い
だからこの感情も自分のものではなく、全てが偽りであるに違いなかった

 

 

「そろそろ出発するってさ」
リグレットの伝言そのままにアリエッタに伝えたシンクはすぐに背を向けようとした
「あ、あの…」
「何?」
小さく小さく言葉を少女が紡ぐ
「あのね、ええと…」
「……じゃあね」
「ま、って。これ…おれい……」
両の手で差し出したのは、色とりどりの花が編まれた輪
獣の頭に乗っかっているものと同じだとすれば花冠と名が付くものだと思われた
しばし無言で見つめ返したら
泣きそうな顔をするから仕方なく受け取った
そうすれば
すぐに笑った


別に、お前のためじゃないよ

さっきと同じ言い訳を、シンクは繰り返した

 

 

END

 


□□□□□□□□

シンク×アリエッタ
好きですよ?ええ、ろくすっぽ調べてないのでマイナーかどうかもしりません(痛)
シンクが絡めば、ほのぼののつもりで描いた話が何故か暗くなる罠!ひい!!
というか自分は突発的に何を書いているのか(遠い目)
この二人は可愛いです
とても好きですよ、見た目的に!境遇は涙なしでは語れませんがね

花冠は幼い頃作るのが大好きでした
やがて花は萎れるわけですが、あの頃はそんな事なんて考えないで
編みあがっていくのが、ただ楽しくて上手く出来ると嬉しかったものです
きっとシンクは何だかんだで萎れるのが嫌で
ディスト辺りに枯らさずに保存できるモノを作れと脅してればいいです(笑)

ここまで読んでくださった方ありがとうございました〜

 

2007 5,18

 

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