―陽だまり小道―

 

さわさわと風が木々を揺らし音をたてる
同時、足元の明るい欠片が、その音にあわせて揺らめいた
人影は無く、待ち人が来る気配も無い

ヴィティスは、もれそうになる欠伸を噛み殺し小さく微笑を浮かべる
「忙しい……のだろうな」
今日ここでという事以外何一つ決まってはいない約束は曖昧だ
だけれどヴィティスは、それが気に入っていた
こうやってフィールを待っている間だけは、本当に時の流れが穏やかであるように思えるから
全てが慌しく過ぎていくのは、過去も今も変わらない
OZだった頃は、その責務があり
カテナに戻った今でも、仲間や同族を守るためすべき事は少なくなかった

今日という日を空けるためにした苦労も苦労のうちには入るばくもない
こうやって時間を気にせず誰かを待っていられるのは幸せだった

いや……約束の相手が彼だから

そう、思うんだろう
フィールは約束を破らない
分かっているから
待たされているというのに、それすら本当に楽しくて嬉しかった
もう一度緩やかに笑いヴィティスは気に背をあずけ腰を下ろす
特に帰る理由も無い
だけれど待つ理由だけはあった
「どんなに遅くなっても……来てくれれば良い」

顔が見たかった

そして名を呼んでくれれば――……

 

 

待ち合わせの場所まで後少しという所で、フィールは立ち止まり息を整えようと胸に手を当てた
どくどくと心臓がせわしなく鼓動を刻むのを感じ、随分と急いでたんだなと今さらながらに自覚する
早く会いたいと気持ちは急いたけど
それを押さえ付け一度二度と深呼吸をした
自分が彼なんかより、ずっと年下で子供なんて事は嫌になるくらい分かっているけれど

それでも…いや違う、だから―――

余りにも子供っぽい所を見せるのは嫌だった
その考え方自体が子供じみていると気付かないわけではなかったが、それを考慮に入れた所でどうしたら良いのかなんて分からない
だから自分が出来る精一杯をしていられたらと思う
本当に……彼が大好きだから

呼吸もだいぶ落ち着いて、フィールは少しばかりゆっくりと歩こうとした
それでも早足になってしまうのは、どうしようもなくて
ただただ嬉しくて
約束の場所にヴィティスの姿を見つけた時は嬉しくて声を上げてしまいそうになる
大声で名を呼ぼうとしたけど

あれ?と思った

いつもなら、すぐに自分の姿を見つけて
手を振るだとか立ち上がるだとかの反応がある
君の気配ならすぐに分かると、苦笑気味に言っていた彼のこと気付かないという事はないだろう
だけど遠目ながらも見えたヴィティスは、動かず俯いたまま何かを思案しているようだった
何か考え事をしているんだったら、声を上げて邪魔するのも悪いよね……
気配に敏感である彼が気付かないのだからよっぽどだ

あの涼しげな瞳に映れないのは残念だったけれど、それも一時の間
傍まで行けば、いくらなんでも気付くだろう
いつ気付いてもらえるか、そう考えながら歩いているのもきっと楽しいと思えた
フィールは足取りも軽く最短距離を歩いていった

間近まで来て

「……あ…」
そうしてやっとの事で気付く
「…寝てる……」
木に体重をあずけたまま、器用に彼は眠っていた
ちょうど日陰になるその場所に通る風は、心地良くて気持ち良さそうだ
さわさわと木々がなり
フィールの髪を撫でていく柔らかくて温かい風
それこそ風の音に紛れるように傍まで寄って、隣にしゃがみ込む
窺うように覗き込んでも起きるようすはない

ひどく整った顔立ちだと思う
少しだけ鋭い目も、冷たいまでの青い輝きも今は見えない
だからか…ヴィティスは少しばかり幼く見えた
「……―――」
自分より年上で背も高い男の人に抱く感情じゃないって分かっていたけど、思わずため息がもれた

なんて…綺麗な人――……

初めて見た時から、その思いだけは変わらない
何度会っても
何度見つめても
外見だけなんかじゃない……本当に綺麗な人だと思う
言葉を知らないせいかもしれないけど、そうしか思えなかった


そんな彼が、こうやって会ってくれるのは幸せ
ぼくが向ける感情に答えるという意味が無かったとしても
こうやってぼくを待っていてくれて、ここにはぼくとヴィティスしかいなくて
彼を独占出来る瞬間が、何よりも幸せだと思う
「ああ、でも……違う、かな?本当は……」
囁く言葉は、風よりも穏やかに空気を振るわせる
ヴィティスを起こさないように、フィールは小さく笑う

本当は

自分を想って欲しい

自分が彼に向ける感情と同じように

「今は…無理でも、いつか――」

いつか、ぼくを


さわさわと風がなる
流れる時間は、雲がその形を変えていくときのように穏やかだ
ここだけ、切り離された場所のよう
そうする事が当り前であるように、フィールはヴィティスに口付けた
気恥ずかしくなってすぐに離れたけれど
目の前にいる彼には、やはり起きる気配はなくて
「疲れてる、のかな?」
折角気持ち良さそうに眠っているのに起こしてしまうのも気が引けてフィールはそろそろと身を離した
早く起きてくれればと思うのに、もう少し休んでいて欲しいとも思った

でもどちらでも良い

ただ

起きたなら、その瞳にぼくを映して名を呼んで?

 

 

「……」
ふと、意識が浮上する感覚に眠っていたのかと理解する
ヴィティスは目を開き、眠る前と変化しない景色をぼんやりと眺めた
変わったといえば太陽の位置くらいだろう
すべての影が、少しだけ伸びていた
大して長い時は眠ってはいないようだと身体を起こそうとして
「これは…」
自分にかけられている上着に気付いた
見慣れたそれは待ち人が、好んで袖を通していたもののはずだ

こんな穏やかで暖かい日なら風邪をひく事も無いだろうに……
そう思うと苦笑がもれた

「起こせば良いものを……」
本当に彼は優しい
ヴィティスにしてみれば、簡単に想像出来る事だった
疲れてるんだろうと気をまわして起こさなかったんだろう、それこそ上着までかけて
いらぬ世話と言うやつだ
何のために…ここで待っていたと思うのか

上着を手にとり立ち上がると、ヴィティスは一度目を閉じた
近くにフィールが居るのだとすれば、そこにエテリアが集まるはずだった
カインや神々の子同様にエテリアに愛される者だから

居場所はすぐに知れた
空間を移動しさえすれば、数瞬で向かえる
だが
ヴィティスはあえてそれはせずに歩き出した
歩いた所で大した距離は無く辿りつく場所ではあったし、もうしばらく会えない時を楽しむのも良いと思った
まるで子供だなと、自分に苦笑を向けながら


この先は川辺だったと記憶していたヴィティスの情報に違わず
ひらけた先に、キラキラと輝く流れが見え
探し人もすぐに見つかった

森を少し外れた水辺で
白金色の輝き達に手を伸ばし、戯れるような動きに穏やかに笑っていた
邪魔をするのが無粋とすら思える光景
その様子を見た時、ヴィティスにしては珍しい感情が胸の内を掠めた
チリとした苦い感情だ
面白くないと、思ってしまった
その想いに名をつけるのは恐らく簡単なのだろう

「……らしくない」

苦笑を浮かべるだけで、それを排除し
ヴィティスは聞こえるよう待ちわびた人の名を呼んだ
「フィール」
とたん、向けられるのは

嬉しそうな顔と

「ヴィティス!!」

 


名を呼んで、傍に居て

今はそれで良いけれど

本当はもっと――――……

 

 

 

END

 

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フィール×ヴィティスその2です
両思いのようでいて、微妙にすれ違ってる関係が萌えます!!
フィールはヴィティスの事がものすごく好きだけど、ヴィティスの方が一線引いてるような
好きなんだろうけど
どうしても上手く伝えられないし、伝える事が良い事とは思ってないんですよ(きっと)
だけど離れるのは嫌で
もしかしたらフィールに押し切って欲しいと思ってるんだろうか
余裕があるように見えて意外に弱いな(驚)

寝てるヴィティスにキスするフィールを書きたかっただけなんですが
初々しいカップルだね!!良いね!青い春だね!!(愛)
と机をバンバン叩きながら書いてた私の頭の中は平和です(>_<)


それではここまで呼んで頂いてありがとうございましたvv

 

 

 

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