裏切ったのはどちらで
裏切っていたのはどちらか

全く似ているようなそれは

全く違っている

 

―折られた翼―

 

不安げに見上げてくる幼い瞳に
カインはしゃがみ、その頭をゆっくりと撫でた
「と…さん……」
髪と同色の瞳は薄い灰色、本当に自分の幼い頃に良く似ている
だからきっと
泣かずに、いてくれるだろう
「大丈夫だよ、フィール。恐いことなんか無い」
もう少しで、現OZがここまでやってくる
おそらく実際にここまで辿りつけるのは彼だけだろうが
それは好都合というより、計算しての事だった
だから、わざわざここを選んで
結界まで張ったのだ

ぎゅうと自分の服の裾を掴み、傍に居てと瞳で訴えるフィールを遠ざけるのは悲しかった
それは一時的にではなく永遠なのだから
「もうすぐ私の大事な人がここに来るんだ……フィールはあの子の傍に居てあげて」

小さな身体を抱きしめ、どうかと祈る

神々に対してなんかじゃなく「希望」に

これから私のしようとする事が間違いで無いように、自分勝手でないように
「お願いできる?」
こくんと頷いて、駆けて行くフィールを眺めながら
カインは小さく溜息をついた
「ほとほと…私も残酷だ」
ヴィティスは一体どういう思いで、私の前に立つのだろう
想像しか出来ず
実際の思いには遠く及ばないのだろう

「ごめん…ね」

あまりにも身勝手な謝罪は彼の前では口に出来ないけれど
謝らずにはおられなかった

 


カツン、と硬質な音が耳を突いたのはフィールを遠ざけてから数分も経った頃だろうか
短いはずのそれは、思ったより長いなと感じた
小さく笑う
ひどく懐かしい
そう感じたのはお互いなんだろうか
いくら装甲に覆われているとは言え、本当に懐かしかった
纏う清廉な雰囲気も
すらりとした姿勢のよい立ち姿も
何もかもが変わらずヴィティスは目の前に立っていた
「……ヴィティス」
言いたい事は沢山あったように思う、ただ言える言葉は数えるほどにしかない
「君なら、ここまで来ると思っていたよ」
来なければ良いと思っていた瞬間なのか、待ちわびた瞬間なのか
カインは自分自身ですら判断がつかぬまま目を閉じる
思ったほど恐ろしくはない、むしろ哀しかった

分かってしまうから
何故なんだろう、顔なんて見えやしないのに

「よく三年もの間…逃げおおせた」

低く響く声の持つ色彩は、重く、暗い
感情の全てを排除してしまったかのような声に滲むのは
怒りだろう
憤りだろう
そして―――――……

分からなければいい
そうすれば、これ以上君を悲しませずにすむのに
分かってしまうから……言わなくても良い事を口にしてしまいそうになる
それは君のための言葉じゃないって知ってる
「言っただろ?ヴィティス、君の事なら……分かるんだよ」
それを知ってなおカインは口を開いた
浮かぶ笑みは彼らしくもなく自嘲じみていて、少しも似合いはしない
「裏切りたくなんて、なかった」

三年足らずで全ては変わってしまった
少なくとも己を取り巻く全ては
捨てる事など考えた事もないものを手放すしかなかった時から、一体私は何を手に入れてきただろう
それはいまさら捨てられない
果たしてその名が「裏切り」だったとしても


見えぬ仮面の下
小さく息を飲む気配がした
震えているのか、ヴィティスはほんの少しだけ動きがぎこちない
泣いているんじゃないかと思えるほどに、その存在は酷く不安げだった
「―……何故」
言葉は多くない
だけれどカインには、込められた意味を違う理由もない
「何故、神々を……裏切った」
では何故自分を裏切ったのかと、彼は問うた

ヴィティスが言いたい事もヴィティスが聞きたい事もカインは理解していた
した上で
理解してもらえない事も知っていた
同じ場所、同じ目線で話しているはずの2人は、ただ一つの存在の為に決して同じ答えを導き出せはなしない
それが悲劇だとすら気付けない
「それは違うよ」
エテリア達が小さく震え、淋しそうに鳴いた
その言葉は届かない
それを知るゆえの歌のようで
「私たちは裏切り続けていたんだ、この世界をね」
それでも出した答えは確かに真実だった

「……そのような戯言なら、聞くつもりはない」
びりと空気が鳴る
レクスすら装着していないはずのカインは、小さく笑った
分かっていた事だ
話した所で今のヴィティスには通じない
カインを護るかのように漂うエテリアたちに、彼はただ望んだ
「私の事はいい…彼を、助けてやってくれ」
翼を手折り、カテナに戻して欲しいとカインは囁くように空気を震わせた
それがどんな結果をもたらすか、知っていたけど

「神命を…執行する!」

的は一つ、全力で攻撃を打ち込むなら…いくら彼でも隙は出来るはずだから

 

小さくはない爆音が辺りに響いた
1人は何かが砕ける音を聞き悲鳴を上げ、もう1人は声すら上げる事はできない
そうそれは
全ての始まりで全ての終わり

「わ、私…は?」
しばらく何が起きたのか分からず、ヴィティスは数度頭を振った
そうして分かりたくもない事を理解する

たった今、自分はカインに何をした?
神命をと……間違った考えのもとに―――――…
「…ヴィ……ティス……」
思考を整理しようとする隙間に滑り込んだ声に、ヴィティスはぞくりとした恐怖を感じた
かすれた声に生気はなく、まるで死に逝く者の声のようだったから
「っ…カインっ!」
急いで助け起こす手が血で濡れた
「…な……んで」
生身でレクスの最大出力の攻撃を受けたカインは血にまみれていた
引き千切られたような傷口からは、どくどくと水が湧き出すかのように赤い血が流れ出る
傷をふさぐ事が出来ないなんて事はすぐに分かった
手遅れだとかどうとか以前に…致命傷だったのだ

愛した人を、私は自分の手で殺すのか
そう、神命が下った時思った
でもそれが間違いだった今、どうしたら良いのか分からないままヴィティスはカインを見ていた
ガタガタとカインを支える腕が震える
「君…を、解放出来た…ようだ」
「すま…ない、私はっ……!」
声が出ない、気分が悪い、後悔の念だけで息が出来なくなりそうだった

「君が、悪いんじゃない」
まるでヴィティスの考えを読んだかのようにカインは笑った
目を細め、こうやって話が出来るのが本当に嬉しそうに
そんなに顔を青くしないでよと、血の気のない顔でカインは冗談を言うようにくすくすと声をたてて笑う
まるで昔に戻ったかのような光景は
悲しいまでに短いものだけれど
「……君に頼みがあるんだ」
気を取り直したかのようなそれは、最後の願いだろう
小さく頷くヴィティスにカインも頷き返し言葉を続けた
「私は、ここで希望を守ってきた……」
それは恐らく、カインが破棄を命じられたもの
「その希望を、君に――……」
ぐらぐらと揺れる意識を保つのが億劫でカインは目を閉じた
ホッとした
きっとヴィティスなら守ってくれるだろうから
「君…に―――……」

意識を手放してしまう直前、ぎりぎりの所でそれを押しとどめたのは
ぱたと落ちた、温かい雫だった
「……っ…死、ぬな…カイン」
無理だなんて分かっているはずなのに、懇願するかのような声はただただ悲痛だ
「…泣か、ないでよ」
感覚がほとんどない手をどうにか持ち上げて濡れている頬を撫でた
変わりに付いたのは赤い血
白い頬に、赤は映えて綺麗だと思った
「ヴィティ、ス」
まだ言葉を紡ぐ事が出来るなら、そう思い口を開く
でもこれはきっと…君を残して逝く私のエゴなんだろう

「あいし……て…た」

残酷な、言葉
でも
本当に

三年前、全てが変わってしまうあの日まで、本当にただ…君だけを―――

 


動かなくなってしまったカインの亡骸を抱き、ヴィティスは血が滲むほどに唇を強くかんだ
そうしていないと声を上げて泣いてしまいそうだったから
急速に温度を無くしていく身体、この瞬間に死ねたらと本気で思う
彼の言葉が無ければ迷うことなく後を追った事だろう

「愛し…てる」
もう何も紡がないその唇に触れるだけのキスをした
自分からしたことなど無かった口付けは、ただ冷たくて……苦いもの
何よりも大切だった
きっと最初で最後の……
一度きつく目を閉じ、ヴィティスは立ち上がった
全てをここに置いて行こう
そう思うことで、どうにか崩れそうになる思考を押しとどめた
時間は余り無い
カインの最後の願いを叶える事だけが…自分に出来る償いなのだから

そうわりきって初めて視界にそれらを収める事が出来た
少しばかり距離があるせいもあるのだろうが、今の今まで気付かなかったのが不思議なほどの力の塊
そうして、まるでそれを庇うかのように立つ少年……
「……」
薄灰色の髪に、同色の瞳
今しがた眠りについた、愛しい人の面影があった
「そうか…この子は、カインの……」
強く睨みつけてくる瞳は父譲りだろう、迷いは微塵も無い
「これが、君の希望か…」
何故だか少しだけホッとした
苦い微笑を浮かべ、ヴィティスは希望に背を向けた

今となっては屈辱でしかないレクスを身に纏い肩越しに一度振り返る
果たしてカインの最後の願いに違えるかも知れない
だけれどきっと、こちらの方が良いはずだ

出来うる限り

君の思う希望を守ろう

その時が来るまで

 

 

 

END

 

□□□□□□□□

カイヴィその2!!断章話ですよう!!暗くて良いですね、あははははは(ヤケ)
元から薄暗くて死にネタで血とか書くの好きなんで楽しかったです
すごくすごく楽しかったです
そしてヴィティスの余りのカインラブっぷりに
「おいおい、これきちんとフィルヴィになるのかよ」と自分で不安になりました(汗)
にしてもカイン視点は書きにくかったです〜
3、4回書き直したんですが、それでも上手くかけなかった気が……
しかも断章は謎がいっぱい(個人的に)だったんで、好き勝手にぞうていしました
そりゃあもう好き勝手に(やりすぎ)
つか、まともにゲーム中の会話を使う気が無いのがバレバレでしたね^_^;

次回は4章ネタで行くつもりです
フィールとヴィティスのファーストコンタクトですね(キラリ)
さてさてどうなることやらv


ここまで読んでくださって、ありがとうございます〜vv

 

 

 

 


 

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