多くのカテナは悪夢を見るだろう
多くの人々は許さないだろう

神々の腕に指に姿を変え、人間達を迫害した事実は変わらない
それが呪いゆえだと理解しても


心だけは

 


――届く声――

 


仕事の話もそこそこに
楽しそうに雑談するカテナの青年をヴィティスはたまにの相槌を打ちながら眺めた
よく笑う……ようになったと思う
この青年だけではなく
他のカテナ達も

「と…すいません、長居し過ぎました……!」
「構わない」
途中で話が逸れた事に気付いたのだろう、慌てて立ち上がり頭を下げる
「それではヴィティスさん、お邪魔しました

片手を上げ退出する青年に応え
ヴィティスは彼が持ち込んだ書類を手にする
いつ頃からか、カテナ達は彼を「長」と呼ぶ事はなくなった
神々が滅んだ今となっては、その通り名には意味が無いといえば意味がない


御使いの長

その名でカテナが記憶するのは闇色の悪夢、神命の名を借りた深紅の追憶
目を覆いたくなるだろう
忘れてしまいたいだろう
だけれどそう思えば思うほど、感じれば感じるほど
瞼の裏にこびりつき記憶の底に燻る
カテナは、御使いであった己達を…御使いの長を簡単には過去に出来はしない

だから不思議だった
「ヴィティスさん…か……」
悪夢から逃げる為ではなく、ただ素直に名前を呼ばれた事が
笑い、当り前の日常を楽しむ
自分達はそんな簡単な事すら忘れていたはずなのに
元より、ゆると流れる時を背負うカテナ達
多くの時間が必要だろうとヴィティスは思っていた
カテナが自分自身を許す事も、人間がカテナを許す事も

書類に目を通す事よりも思考に意識を持っていかれている
その状況に気付き、白い紙面に規則正しく並ぶ文字を追うのを止め
天井を仰いだ

理由と原因
つい考えてしまうのは、皆を纏める立場にいるためと言うよりは
ひとえにヴィティス本人の気質に起因している
前を向けたのなら喜ばしい
そう思いはする
だが、それがそうである理由を探し、原因を思考する
答えを導き出す為には
いささか材料が足りなかった

「……?」
溜息をつくと同時に気付いた、カテナでないものの気配を
だからといって、ただの人間のはずもない
エテリア達がざわめき
軽やかに窓の外を内を嬉しそうに舞い踊る
神々の子か
フィールか
どちらにしても分かりやすい
仕事をし続けるような気分でもなかったから、立ち上がり開け放したままの窓に近付き見下ろした

陽の光は高く、強くはあるけれど
確かに大地を覆い慈しむ
降り注ぐ光を取り込み、淡く輝くエテリアのただなかに彼は立っていた
「フィール……」
声をかけた
と言うよりは確認に似た囁きはフィールには届かない
大した用事もない
ただ気になっただけなのだ
こんな所に来ているという事は、彼にはそれなりの目的があるのだろうとヴィティスは思う
邪魔をするのは本意ではなかった


誰かを探しているのかきょろきょろと視線を彷徨わせ、困ったように頭をかく
暑いのだろう片腕で汗を拭い、建物がつくり出す影に身を引き再び辺りを見回している
「……誰を探しているのかね?」
何故
声をかけたのか
いつもならばしないだろう自分の行為は滑稽だ
自分の知っている者ならば、居場所を教えた方が良いだろうと必要もないのに言い訳をした
炎天下の下に長く居る事はカテナにも人間にも、身体にあまり良くないのは事実だったが

「あ、ヴィティス!」
驚いたかのように見上げてきたフィールは、すぐに嬉しそうに口元を綻ばせた
「仕事してたの?順調?」
「…質問をしたのは私の方なのだが?」
「あ…ご、ごめん」
照れているのか焦っているのか
ええと、と言葉を捜すフィールにヴィティスは穏やかに深い藍色の瞳を細める
表情の変化はほぼ皆無
だがもし、ここにかの親友が居たとするなら
優しく笑うようになったねと、苦笑を浮かべるのかもしれない

「やらなければならない物事に滞りは無い、気遣い感謝しよう」
「そうなんだ、なら良かった」
返される笑顔は温かかった
「それで…君は誰を待っている?」
同じ質問を繰り返し、やっとの事でヴィティスの最初の言葉を思い出したのだろう
ああとフィールは頷いた
「カテナの友達だよ、最近仲良くなったんだ」
「…カテナの?」
「うん!ええとね――――…あ!」
説明しようと口を開きかけ、視界の端にその人物を収めたのだろうフィールは小さく手を振る
彼に倣い視線を移動させ、ヴィティスは表情を変えぬまま驚いた
あの青年か……
少し前まで笑い、話をしていた彼は
やはり手を振るフィールに楽しげに手を降り返している


驚いたと同時に妙に納得できた
「君のお陰……なのか」
「え?何が…?」
「……独り言だ」
曖昧に首を横に振れば、微かに首を傾げたけれどフィールはそれ以上問う事無くふわりと笑った

よく考えていたなら分かった事なのかもしれない
己以外では、初めてカテナに戻ったアルミラやレオン、ジュジュ、ガルム
皆、このフィールという存在があったから
カテナとして戦えた
果たしてその手が血で汚れていようとも、死んだとしても償いきれない罪がその身にあるのだとしても
笑う事を、カテナである事を忘れずにいられた
「希望」だと過去、彼の父は口にした
神々の子の事を言っているのだとばかり思っていたが、きっと彼も

「もう行くと良い、私と話していては彼も声をかけ辛いだろう」
「うーん…そうかな?分かった、じゃあ行くよ」
ほんの少し名残惜しそうにフィールは友に向かい歩き出す
だけれど立ち止まり、再び見上げてきた
「あのさ、後で寄っても良いかな?」
「ああ」
「ありがとう!」
礼を言わなければならないのはどちらか、分かっているから何も言えず頷く

 

励ましではなく
慰めでもなく
ましてや同情でもない

エテリアの声よりも優しく、陽の光よりも柔らかく温かい
その存在は時よりも確かなもの


離れていく背に、ヴィティスはフィールの言葉をそのままに繰り返した

 

 

 

END

 

 

□□□□□□□□□□□

匠はフィールが大好きなんだね!!って言う話です、ええたぶん間違いなく
最初考えてた話はもう少し違ったんだけど、書いているうちにあれよあれよですよ毎度の如く
相変わらずフィールはヴィティスが大好きなのは変わりません(基本スタンス)
正気に戻ったアルミラやレオンが、普通に戦っていられたのは元来の気質もあるんでしょうが
フィールの存在もあったんだろうなあと(ジュジュがパーティ入りする時にそれっぽいこと言ってた気もする)
意識せずに、いや意識しないからこそ自然に皆を笑顔にして影響を与えられるのが
フィールやドロシーなんだろうなと。ああもうこの兄妹すごい、お父さんあんなに黒いのに何て良い子
んで
ヴィティスはそれを客観的に見て感謝してますが
一番影響を受けたのは、彼だと信じて疑いません。そして自分の事には気付きません(無頓着だから)
本当はそんなヴィティスについて話をするフィールとカテナの青年(名前付けれやれよ)を付けようと思ったのですが
蛇足っぽいので止めました
何となく分かるくらいが丁度いい気がします

そして書くたびにヴィティスが柔らかく、フィールが大らかになってる気がするのは気のせいですか…?
……そうか初夜が終ったものだから余裕が出てきたのね(私に)


ではでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!!(^^)

 


2006 9、17

 

 

 

 

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