夏の空は広くて
夜でも明るかった

音も立てずに流れる河

小さく瞬き輝きを帯び…空に横たわる

 


――願い事――

 


太陽が姿を隠す時間が日々遅くなり
比例するように気温は高くなる
いくら日が沈んで時間がたったとて、太陽光を吸収した地上はゆるやかに熱を放ち
辺りの空気を高い温度のまま保っていた

「あっつ〜い…どうにかなんないわけぇ……」
外なら涼めるのではと出て行ったジュジュが、数分の間もおかず帰ってきたことに
遊びにきていたカインは声を立てて笑う
「夏だからねえ、諦めるしかないんじゃないかな」
「とか言いながら、汗一つかいてないおまえが羨ましいぜ……」
ぐったりとソファーに突っ伏したまま、レオンがうめくように不平を漏らした

まさに熱帯夜
そんな中、一人で涼しい顔をしながらカインは紅茶を口にする
冷たいものではなく熱いものを
誰一人として入れたがらなかったから、遊びに来た家でわざわざ自分で入れたものだ
「いやあ…今日は本当に暑いね〜」
「カイン、そんなものを飲みながら言っていても説得力に欠けるぞ」
「全くだ…」
ニコニコと開け放たれた窓の外を眺めるカインにアルミラとガルムが静かに突っ込みを入れる
いつもならこの程度の暑さでと
ぶつぶつ言っているガルムだが今日の暑さはこたえるのか、そう言ったコメントもせず
氷の入った水を口に運ぶ
それすらもほとんど溶けかけており
精神的な暑さに拍車をかけるような気がした

「私も冷たいお水……」
ふらふらと皆が集まっている場所に近付くジュジュに、アルミラが水差しを持ちコップに注いでやる
一口飲んで、ふうと溜息をつく
「そういえば外で見かけて気になったんだけど」
誰に向けるでもない語りかけに、一様に皆はジュジュを見た
「木みたいな植物に紙をくくり付けてるあれって、人間のお祭りか何か?」
何人かは首を傾げ、何人かはそういう行事があったという事は知っていたものの
詳しい事までは知らないようだった

そんな中
懐かしい事を思い出したかのようにカインだけが頷いた
「ああ…七夕だね」
「タナバタ?」
聞きなれない言葉にジュジュは首をかしげる
「笹に括り付けられた紙は『短冊』と言ってね、願い事を書いて吊るすんだ」
「願掛けか…確かに昔に聞いた事がある気がするな」
昔の記憶を辿るように考え込みながら頷くガルムに、アルミラも同調した
「ああ、私も憶えがある。だか確か年に一度しか逢えない恋人がどうのと言った話がなかったか?」
「……年に一度しか逢えない恋人と、願い事を吊るすのにどんな繋がりがあるってのよ〜」
意味が分からないと文句を言うジュジュにカインは、あっさりと言葉を返す
「気にしなくて言いと思うよ、今では願い事を吊るす行事とでしか残ってないし」

古い古い言い伝えがあったのは
神々が現れるよりも前
まだここにいる皆が随分若かった頃のはずで
明確な記憶として憶えている者は、恐らく居ないだろう

「願い事ねえ…ボウズや譲ちゃんも書いてたのか?」
レオンが興味本位で聞けば、肯定するようにカインは頷く
「へえ!どんなだよあの2人の願い事ってやつは」
「レオン…興味本意で、そういったことを聞くのは感心しないぞ」
わくわくと身を乗り出すレオンを溜息交じりで嗜めるアルミラに、構わないよとその父親が笑う
「私も気になったから見せてもらったしね」
「…で、ど…どうなのよ?」
ジュジュも気になるのか、微かに身を乗り出す

期待されるほどのものでは無いんだけどなと思いながらも
カインは、息子と娘の書いた
願い事の文そのままに言葉を紡ぐ


「みんなが、幸せになりますように」

「お父さんと、お兄ちゃんと、お兄ちゃんのお友達と、ずっと一緒に居られますように」


かける願掛けにしては
大きすぎるようで、抽象的過ぎるようで
だけれど彼ららしい…優しいもの

「らしいねえ…」
感嘆じみたレオンの言葉にカインは笑った
「な、何よ!何の面白みもないっ!!」
「ふふ…フィールらしいじゃないか」
「良い子供達を持ったようだな、カイン」
ふわりとした優しい空気
きっと二人の願いは叶うだろう
そう思わせる何かを、彼らは持っている


「さて、と」
この話は、これで区切りとばかりにカインはパンと両手を叩いた
そこで嫌な予感を感じたのは元同僚の2人だ
ただし逃げる事が不可能な事も知っていた
「みんな暑いって話だから、一つ私が恐い話でもしてあげるよv」
「っ!?い、いいわよ!!良い話で終りそうだったんだから、それでいいじゃない!!」
白々しいまでの笑顔に
ジュジュは本能的に恐怖を感じ、一歩後ずさる
「…聞くよね?」
「…………」
これで否と言える人物は、人間にもカテナにも居ない
その場にいる全員がそう思った
というか確信した

 

 

 

 


「ほら、ここから見る空が一番綺麗なんだ」
自分のとっておきの場所だと、振り返り笑うフィールにヴィティスは空を見上げた
町の明りが遠ければ遠いほど
辺りが闇に覆われれば覆われるほど、空は明るく
それ自体が発光しているかのように見える

木々が闇に同化し空との差を明確にするのに
空の明るさは、星の輝きを阻害する事はなかった
「……見事だな」
数え切れぬほどの輝きは、一つの流れを持つかのように空を横切る
空にこれほどの星があったのかと
素直に驚いた
「あれが天の川、だね」
星が連なる流れを指差し、フィールは楽しいのかやはり笑っていた
川か
上手く言うものだ

「今日はね、七夕ってお祭りなんだよ」
「ああ…聞いた事はある。短冊に願いをかけるものだろう?」
「うん」
「何か願ったか?」
「みんなが幸せになりますようにって」

「……君らしい」
かすかに目を細め、ヴィティスは彼にしては珍しいほど穏やかに言葉を口にのせた
「そうかな…?」
照れたように頭をかいて
これは内緒だけどと、隣に佇む少年は声を潜めた

「本当はね、別の願い事を書こうと思ってた」
空を見上げ
「だけどきっとそれは「叶えてもらいたい」願いじゃないから」
独り言でもあるかのように
静かに、だけど真剣に

「なるほど、君が「叶えたい」願いなのか」
納得したようにヴィティスが言えば、フィールは驚いたかのように目を見開いて
「うん」
嬉しそうに、笑った
そんなフィールの笑顔をしばらく眺め、ヴィティスは再び空に視線を戻す

だけれどフィールは
そのまま端正なその横顔を見つめていた


たった独りで

全てを背負い、それでも前を見て

どれほどの苦痛があったのか

どれほどの屈辱があったのか

一つとして語りはしない

微かにでも

頼る事をしない

 

みんなが、幸せに
それは願いで……確かにフィールの祈りで

でも望むのは
自分が叶えたいと思うのは

「…ぼくにだけは……」

言葉にはしないまま、空に視線を持ち上げ苦笑を浮かべた
今は、この景色を彼に見せられただけで

それで良いと、思えた

 

 

 

 

 

その頃

某所で、全然幸せになれてない皆が居たのはご愛嬌だったりする

 

 


END

 


□□□□□□□□□

突発七夕小説!
何故かドロシー除くフルメンバーが出てきました。いや、こんなに人数いるの
OZで書いたのって初めてな気が……
アルミラ姉さんの口調が少し難しいですね、私が書くとややヴィティスとかぶります
頭がよく、端的にモノを言いそうなイメージがあるので2人とも

まあ…フィール×ヴィティスが根底なのはいつもの事ですので
生あったかく見といてやってください
フィールはヴィティスに頼って欲しいそうです
本当に強い人なものだから、誰も
ヴィティスがたった独りで10年以上の間、味わっただろう苦痛に気付かないんですね
きっと本人ですら
それは痛みとか傷だと認識だって出来なくて
受けるべき報いだとすら思ってるような気がします
カインさんは気付いていそうですが
踏み込むべき所じゃないと、思ってる場所には触れないタイプですからスルーしてるんですよ
フィールはどうしても気になっちゃうと…!
その根底にあるのは愛ですから(ものすごいフィルター)
しかし幸せにしたいとか思ってるなら、まるで結婚を申し込みたがってるように見える私は大概だと思いました

ちなみにカインさんのする恐い話には、もれなく本物が付いてきます
ヴィティスが帰って来た時には、我慢大会か何かとしか思えない光景が広がってるんですよ
カイン以外が真っ青な顔して、毛布に包まって震えてそう……


ではでは、ここまで読んでくださってありがとうございました〜v

 

20067,7

 

 


 

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