どうかと望む

続くを言葉を知らぬまま

永遠はかくも遠いものだから

 

―欠ける色彩―

 

澄んだ青空に舞う星を思わせる光は、太陽光にすら溶け込まず
その存在を誇示していた
それはかすかだったけれど確かなもの
エテリアと名の付くその光は、時を重ねるごとにほんの少しずつではあったが
確実にその数を減らしていた
神々に搾取されていく故の、減少なのだから
御使いにとって喜びであるに違いない事

凍りついたかのような冷めた輝きを秘めた青の瞳を細め、ヴィティスは小さく溜息をついた
何かを思ったわけではない
言葉には出来ない焦燥感が、ただ風のように掠めていくだけ
意味も理由も分からない
だからこそ余計に気になったし、苛立ちもする
どんな理由を持ってして、これほどまでに感情がざわめくのか

「ヴィティス、こんな所に居たのか」
楽しげな声とともに後から手が伸び、抱きしめられる
相変わらず気配を感じさせない男だ
ヴィティスは分かりやすく大きく溜息をついた
この場合は分からせるためと言ったほうが、幾分かは正しいが
「OZがこんな所で何をしてる」
肩越しに振り返った先
すぐ間近に予想通りの人物が笑っていた
薄灰色の髪と同色の瞳、浮かぶ笑顔は屈託が無くて少年を思わせる
「何をしてるって言われると……」
首をかしげると、つられるように柔らかな灰色の髪が流れた
こう言った仕草をする時の彼は
往々にして真面目な答えを返すつもりが無い時だ
「自分の恋人を探しに来ただけだけど?」
「……カイン」

咎めるような響きを滲ませても、気付いているのかいないのか
うわあ自分って健気だなあと楽しそうに笑うだけ
この男の事だから、分かっていて気付かないふりをしているのだろう
あえて問い詰める理由も今の所は無い
ヴィティスは流されてやる事にして、視線を正面へ戻した

伝えなければいけない事は伝える男だと信じていたし
別段、本気で自分を探しに来たと言うのだったらそれでも良かった

こうして2人きりで会うのは久しぶりだったから


「何を見ていたんだい?」
肩に顎を乗せ、カインはヴィティスの視線を辿る
小高い丘のような場所から見渡す景色は美しくはあった
ただ「何か」を見つめるほど目を引くものがあるわけではない
のんびりするには良い場所だとカインは心の中で呟く
しかしヴィティスに限って、そんな目的の為にこんな場所でぼんやりはしていないはずだった

背中から伝わる体温に安心したのか、抱きしめられた時思わず緊張していた身体の力を抜き
ヴィティスはほんの少しだけカインに体重をあずけた
その様子は甘えているようにも見えたが本人にそんな気は微塵も無いんだろう
ゆるやかにヴィティスの身体を支え
カインは宥めるように首筋に軽い口付けを落とした
ヴィティスは言い難そうに、また浅い息を吐く
囁くような言葉は、この距離だから届いたが
少し離れていれば風によって簡単にかき消されるほどの声音だった
「……エテリアを、見ていた」
「エテリアを?」

感覚を優先させて言葉を口にする事を得意としないヴィティスは、それ以上何も言えず瞳を閉じた
カインの体温は温かくて、心地良い
でもそれすら不安になるほどの「何か」を確かに感じる気がしていた
馬鹿馬鹿しい
そんなもの気のせいでしかないというのに
考えを頭の隅に追いやるようにゆるゆると首をふるヴィティスに
カインはこっそりと苦笑を浮かべた
彼もやはり感じているのか、と
もとより、そういう風に出来ているカインが、エテリアの変化を感じるのは当り前だった
小さな輝きが感じているのは
漠然とした不安と……そして期待だろうか


それはいつか全てを壊す力だろう

少なくとも今のこの世界のあり方を


もしかしたら
今回言い渡された任務に関係があるのかもしれない
感覚的にそう感じた、もしかしたらエテリアがそう思わせているような気すらする
だからこそ……ヴィティスに会っておきたかった
不安にさせたくなんか無いと
だけどそれは反対に、自分が不安だったせいだったのだろうか

「……愛しているよ」

それでも安心させたくて
真摯に言葉を紡ぐ
耳元でそう囁けば腕の中の彼は小さく身じろぎをして目を開いた
「――…敵わないな」
腰にまわしていた手に、ヴィティスの手が重ねられ控えめに握られる
「君は私が何も言わなくとも分かるらしい」
安堵感を滲ませた声
不安だったのだと、暗に告げるヴィティスがたまらなく愛しい
得意げに笑い、まわした腕に力を込める

「ヴィティスの事なら何でも分かるよ?」
後から抱きしめているせいで顔は見えないが、微かにヴィティスが笑ったのが分かる
ほんの少しだけ目を細めて
くすぐったそうに笑っているんだろう
自分の前でしか見せない笑顔がカインは気に入っていた
「可愛いね、ヴィティスは」
「何度も言ったはずだが、そういう事を言うのは止せ」
手を離すように促されてカインは素直に解放する
ゆっくりと身体を反転させたヴィティスは、予想通り不機嫌そうだ
いや違うか
照れてるだけ…かな?
「似合わないだろう……私にも、君にもな」
「そうかな?」
くすくすと笑いながら、カインは身体を離したときに出来た距離を詰めた
眉を寄せ、本当に不機嫌そうに見える顔はやっぱり照れ隠しにしか見えなくて
「やっぱり、可愛いよ」
「………っ」
ついと視線を泳がせるヴィティスの顎をとらえ無理矢理視線を交わらせる
今度は分かりやすく、瞳がゆれた
「…カインっ……!」
「照れなくても良いのに」
にっこりと笑い、顔を寄せた

逃げるつもりが無い事は分かっていたから、押さえつけも捕まえもせず口付けを落とす
まあ…逃げようとしても逃がすつもりなどカインには無いのだろうが

唇をかすめるように口付け
吐息が届く距離でヴィティスの瞳を覗き込んだ
戸惑いと羞恥が見て取れたけど、やがて諦めたように瞳を閉じる
気付かれないよう小さく笑い
カインはヴィティスの身体を再び抱きしめた

何度も角度を変え口付けるたびに力が抜けていく身体を支えてやりながら
服の上からヴィティスの弱い場所を軽く撫でる
「……くっ…う…」
口付けの合間に漏れる声は、彼らしく吐息に混じる微かなもの
無意識のうちに堪えられているだろうその声は、いつ聞いてもひどく煽られる
「ずっと、傍に居るよ」
そう囁いた言葉に嘘は無い
だというのに、ヴィティスは一度驚いたように目を見開き
一呼吸置いて睨みつけてきた
「どうしたの?」
どこで機嫌を損ねさせたのか分からず、苦笑を浮かべながらカインはそう問いかけた
敵意じゃない、どちらかと言えば不信を込めたであろう視線
そんな事を自分は言ったろうか

「ずっと……」
「ん?」
「ずっと、と君が言うのは不可思議だ」
当たり前のことは口にしない君が、そうやって言うのは不自然だとヴィティスは言った
「まるで傍に居れなくなる事への…言い訳めいている」
思案するかのように視線を外し、すぐに射抜くほどに強い瞳をカインに向ける
「君は何か隠しているだろう?」
一番最初から付きまとう違和感の原因がそこにあるような気がした

 

意外な事に、カインは笑わなかった
いつも…本当にいつも笑っていた彼は、ヴィティスの問いに口元から笑みを消したのだ

「参ったな…」
言い当てられて気が動転するなんて何十年ぶりだろう
そもそも言い当てられた事自体、対してなかったはずだ
「…カイン」
「分かったよ」
バツが悪そうに今さらな笑顔を浮かべ
カインはヴィティスを抱きしめたまま内緒話をするかのように声をひそめた
「実は―――…」
「……」
真剣に頷く恋人に対し、カインは緊張感の無い笑顔を口元に乗せた
マズイとヴィティスが思うよりも早く後頭部を押さえつけられ、文句が口をついて出る前に塞がれた
「んぅっ…んっ……!ふ…」
突き飛ばそうとした手は掴まれ
開いている片手ではどうあっても上手く抵抗が出来なかった
抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、口の中を荒され、ヴィティスは無様に身体を震わせていた
弱い部分を知るカインにしてみれば
手の内に居る恋人を陥落させる事は決して難しい事ではない
がくりと膝が折れ、倒れそうになる身体を支えようとカインの服に縋り付く
もう拘束必要も無いだろうとカインはヴィティスの背に両の手を回し気がすむまでキスを繰り返した

解放した頃には
ヴィティスの血の気が余り無い顔は赤らんで、瞳は少しばかり潤んでいた
何かを喋ろうとしているらしかったが
やっとの事で、思う存分酸素を取り込めると身体が思っているのだろう
はあはあと浅く早い呼吸を繰り返すだけだ
「き……みはっ……!」
「神々のご命令で、あるものを処分しに行く事になったんだ」
怒りを含む声に重ねるように、カインは静かに言葉を続けた
「エテリアを集めるもの……それ以上は分からない。OZが受ける命令だから危険だとは思う」
カインの口元に浮かんだのは苦笑
「ごめん、隠してるつもりはなかったんだ」

言えなかっただけ
帰って来れる気がしなかったから

「レオンもアルミラも一緒だから大丈夫だろうけど、少し不安だったんだ」
「……君ならすぐに片付けられるだろう」
呼吸を整え、少し呆れすら込められた言葉は彼らしくて笑えた
「何を隠してるのかと思えば……不安になるなど君らしくもない」
「うん、そうだね」

もう一度軽く口付け、身体を離した
「すぐに帰ってくるよ、そうしたら会いに行くから」
その笑顔に不安そうな色はもう無い
「…会いに来るだけか?」
「まさか!」
その時はさっきの続きをよろしくと軽口をたたいてカインはまた笑っていた

 

 


そうして彼は帰って来なかった

 

 


「今だから思うが……」
あれから3年ほどたったろうか
OZの称号を受けたヴィティスは、三年前と同じ場所で同じ景色を見つめ呟いた
「あの時君は……別れの挨拶をしに来たようだったな」

そのつもりだったのか
神々を、自分を裏切るつもりで――――

ヴィティスは暗く笑った

答えなどいまさら欲しくは無い
ただ知っただけだ
ずっとなどと言うことは在りえないという事と
見つめる景色に一つが欠けただけで……簡単に色をなくすという事を

 

 

 


END

 

□□□□□□□□

カイン×ヴィティスですが、そうじゃないですから…!(日本語がわかんないよ)
カイヴィ前提のフィール×ヴィティスが書きたかったんで
とりあえずカイヴィから書いてみました
裏切りどうこうの話が入りますから暗くなって良いですね(オイ)
しかし
カテナの時間感覚ってどうなのかなあ…
三年って長いのかなあ……

続きは
断章・カインの話になります

はやくフィール出したいなあ……

 

2005 11、3

 

 

 

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