いつも思っていた

全ての事象、全ての物事には終りがあって最後がある
それは『神々』ですら侵せぬ理だろう

たまに思う

なら目に映る全て、触れる全て
それらは私の夢ではないのか


――夢の現実・現実の夢――


過去の遺物だろうか、エテリアの見せる夢だろうか
エキストラと名のついたそれは
あるはずの無い存在を確かにあるものとして、どこまでも忠実に再現して見せた
レクスから伝わる手応えもあれば受ける痛みもある
試した事は無いが
致命傷を受ければ死にさえするのだろう

滅んだはずの神を朱色の刀身で沈黙させ、カインは暗く笑った
イツワリは…どこからがイツワリ?
黒い色彩を持つ思いは、一体何時から己の中に巣食うのか
答えを知っていながら
今一度、自分自身に問い掛けるのは
信じるためか、疑うためか
どちらでもあって、どちらでもありはしない
「ここは、嫌い…だな」

現実のはずが無い現実

触れられる夢

それは何かに似ているから


「……」
己から生えているはずの腕が酷く不自然に思えて、まじまじと眺めた
斬りつけてみようか
そうしたら分かるかもしれない
カインが、意志を持ってレクスを握る手に力を入れた時
声が聞こえた
「父さん!」
「……?」
懐かしさを帯びる声は、まだ聞きなれず
曖昧に振り返った先
手を振る少年が目に入った、隣に立つのは確か親友のはずだった
「そろそろ帰ろうよ!」
明るい声が、自分には不似合いだと思う

「―――……どこに?」
小さすぎる声は届きはしない
だけれどフィールは表情を曇らせ、ヴィティスは眉を寄せた
ぼんやりと2人に向けられた視線は何一つ映してはいなかったから
感情がこもらない灰色の瞳
いつもの彼からは考えられないほどの近寄りがたい雰囲気
口元に笑みをのせていなかっただけだろう
だというのに
そのカインの表情は冷えた刃を思わせる
何かあったのだろうかと、感じる不安を押し殺し
フィールはもう一度
虚ろに視線を向けてくる父を呼んだ

「とう…さん?」
「……フィール」

ようやっと目の前にいる人物を認識したのか
カインは笑った
冷えた刃は姿をひそめ、人好きする笑顔は本来のカインらしい
先ほどまでの近寄りようさえない表情や雰囲気全てが気のせいだったのではと感じさせる
優しい声音は、温かかった
「先に、帰ってて。少し考え事したいんだ」
不安そうに、それでも確かに頷いて
ヴィティスに二言三言、言付けた後フィールは赤い刀身を手放した
とたん刃は重力に捕らえられる事無く
猫を模した生物へと姿を変える
フィールの戦い方がああだこうだと文句をたれながら肩を並べて歩いていくさまが、微笑ましくてカインは目を細めた

あるべき世界は確かに時を紡いでいる
……そうだと信じている
信じようとしている
それは疑っているからこそ、ある思い

「―――…『ここ』は何なんだろうね?」
先に帰ってて欲しいという言葉は
フィールとヴィティス、2人に投げかけたものだったが
意味を取り違えたのか
それともフィールの言付けのためなのか
一定の距離をあけたまま佇んでいるヴィティスにカインは問うた
イツワリの神が消えた今
そこは静かだった
現実から切り離され、空虚に時だけが過ぎていく
「……記憶だろう」
言葉多くないヴィティスの物言いは、らしかった
少しばかり曖昧な言い方は、確証は無いという意思表示だ
高い天井を仰ぎ
カインは口元を歪ませる
「神々、のかい?」
「……違う。神々は滅した」
滅んだ、滅ぼした
神さえ無敵ではなく平等に死を見る
「ここは神に歪められたエテリアの記憶……少なくとも私はそう理解している」
流れにすら戻れなかったエテリア
それらは集まり留まり夢を見る

「――記憶…夢、そう…かもしれないね」
カインは笑う
それが果たして心からのもので無かったとしても

死した神々、残った記憶

それは現実のはずが無い現実で、やがて触れられる夢になる

ここは似ている

死んだ事がイツワリではないのは確かだ、だとするなら生きている事こそが――……
天井を仰いだままカインは目を閉じた
やはりここは嫌いだと小さく呟いて
「――っ!?」
とたんヴィティスが息を飲んだのが分かった
また、しもべを模したモノが現れたのかと目を開く
「……」
何も、居はしない
だがヴィティスが驚いた理由は理解出来た
先ほどまで居た場所ではない場所に移動していたのだから
もしこれが記憶だとするなら
確かに有り得ない話では無いのかもしれない
「ここ…は」
信じられないという風に、ヴィティスはゆるく首を振る
ひどく懐かしい場所だろう
カインにとっても、ヴィティスにとっても
2人が最後にまみえた
カインにとっては最後の、ヴィティスにとっては始まりの

この場所だけは、どうあっても来る事は出来なかったはずで
わざわざ来たい場所なわけでもなかった
ヴィティスは戸惑ったように辺りを見回し、小さく顔をしかめた
ここは好ましい場所ではないのだから

「あははははっ…」
だというのに
カインは声をたてて笑った
さも楽しそうに、さも可笑しそうに
軽い足取りで、ある場所まで進みしゃがみ込む
黒衣から伸びる手は、ごつごつとした大地にあてられた

「私は、ここで倒れていたね」
昔話をするかのようにカインは口を開く
「そうして君は、私を助け起こし名を呼んだ」
15年足らずの年月
彼らにとって、それは長いものなのか短いものなのか
少なくともヴィティスには
それが昨日の事であったかのように思い出せた
「カイン……それは……」

「私は死んだ」

当事者であるはずの感慨深さは彼には無い
まるで傍観者であったかのように、笑みをのせたままの口元が言葉を紡いだ
灰色の瞳は地に向けられている
しかしカインが見ているのは石ばかりの大地などではなく……もっと別のモノ
遠く見るのは過去の情景
「もう一つ、聞いていいかな」
「……」
返事は無かった
気にした様子も無く、カインは言葉を続ける

触れるのは大地

触れるのは己の手

そのどちらがイツワリなのか

「私はどこにいるのだろう」
それを決めかねていた
死んだはずの自分が、ここにいる不自然は
かくも自然に受け入れられた
だから気付かなかったのだ
「カイン」と名のつく存在が、全ての理を無視していると
「君は……ここに居るだろう?」
カインが思う空虚に、ヴィティスは気付いてはいた
ヴィティス自身にとっても、この過去を見せる場所などよりカインの存在は不可思議だったのだから
だが
どうしようもない事象に果たしてどう答えるべきなのか
答えは自分達が知るところではない
ここに「在る」カイン自身すら、それが分からないのだから

だがもし、己の存在を信じられないとしたなら
それはどんなものだろう

曖昧な思いは、どうしても答えの確定を避けさせる
ヴィティスもカインも答えは持たず
しばしの沈黙の後、地に視線を向けたままだったカインが質問を重ねる
「…じゃあ、これは――……」
ガツと真紅の刀身をカインは突きたてた
まるでトドメを刺すように
「このレクスは、何?」
「…それは……」
カインのレクスは自我を持ちフィールへと受け継がれた
だけれど手に握られるそれは
過去、カインが振るった鮮血色の刀身そのもの

同時に存在しないはずの二つのレクス
答えは無い
応えは無い
眠る人が夢を夢と気付く事が稀なように、白昼夢は他人には見えぬように

ヴィティスは何も言えず
しゃがみ込んだままレクスを突き立てるカインを見つめていた
カインもまた、何も無い場所で自分の死体を見つめていた
「―――…私は」
おもむろに、カインは真紅の刃に触れ強く握る
何の躊躇いもない行動は
ヴィティスに止める隙も、口を挟む隙も与えてはくれなかった
つうと刃と同じ色の液体が刀身を撫で落ちる
あとから、あとから
痛まないわけが無いのに、カインは笑っていた
不自然に口元を歪ませるそれは、笑顔と呼ぶにはほど遠いものだったが
「私は『ここ』と同じじゃないのか」

それは記憶が見る夢
触れられるマボロシ

刃を握る力は緩められる事は無く、いっそう強くなり
つたうだけだった赤は、一際鮮やかに刃を染めた
紅に赤は何故だかよく映えて
カインの黒衣は色を飲み込み、それでも重く濡れはじめているのが分かった
「…っ…カインっ!」
咎める言葉は届かない
「もう一度死んだら……私はどうなるのかな」
跡形も無く消えるだろうか
イツワリの神々と同じように
強い虚無感は感覚すらも狂わせる
握る手に痛みはほとんど無く、ただ流れる赤を見ていたくて力を込めた

 

―――……はずだった

 


「……ヴィティス?」
力任せに手を引かれた
真紅の刃は置いていかれたまま、血に濡れた手を掴む彼の白い手袋が赤く滲んだ
「止めろカイン」
「何故?」
「こんな事をして何の意味がある」
ふわりとカインは笑う
「質問に質問で返すのは、ずるいな」
カインの手の力が抜けたのを確認し、ヴィティスは手を離した

力なく下ろされた手
立ち上がったカインの指先からぽたりと血が落ちる
漆黒から滲んだような赤は、どこか不気味だった
「行動に意味を求めるのは君らしい。ただそれは全てではないよ意義や意志、意思…様々な要因が
それらを決定付ける」
今になって、手が痛んだ
でもそれは少しだけ
「……」
促すようにヴィティスは沈黙を守る
なら、君はどんなつもりで己の手を斬ったのか
静かに…カインはそれに応じた

「夢は、覚めるものだから」

分かるかもしれないと思っただけ
夢なのかどうかと……しかしそれは分からないまま
覚めてしまって初めて夢は夢の色を持つ、だけれど痛みはそのままに景色は変わらず広がっていた
「答えは無いんだ」
ひどく残念そうにカインは目を伏せる
血に濡れているはずの手は、黒衣のため本当に目立たない
カインが秘める空虚さのように
目立たぬとも確かに存在し続ける限り、じっとりと衣服を…心を重くするというのに


「――…そうだな、己が己の存在を証明する答えは無いのだろう」
静かな相槌
それに他の人間の声が重なった
「ヴィティス!父さん!!」
「お父さんっ、迎えにきたよ!」
予想外の声にカインは目を丸くしてそちらを見、分かっていただろうヴィティスは目の前の人物を見たまま口を開いた
「君の求める答えは……」
駆け寄ってくるフィールとドロシーを、カインは眩しそうに眺める
「彼らが知るのではないか?」
「……やられたなぁ」
穏やかに、カインは言った
嵌められたと言いたげな口調には、悔しそうな響きは無い
「フィールが君に言付けたのは私の足止めかい?」
「いいや…ただ私はそう解釈した」
あと…とヴィティスは続ける
「これも私の解釈に過ぎないが……」
表情は相変わらず無くて、口調も何もかも変わるべくも無い親友は
随分変わったのだと信じざるを得なかった
誰かのせいなのか、それとも誰かのためなのか
「一生見続けられるなら、それが現実だろう」


傍までやって来たフィールは、ぎょっとしたかのようにヴィティスの手をとる
「ヴィティス、どこか怪我したのかい!?」
「――…怪我をしているのはカインの方だ、治してやってくれ」
「と、父さんっ!?……っ、手、大丈夫?」
向き直り今だぽつぽつと赤黒い雫が落ちる手をとられ、大丈夫だとカインが言う前に手袋を外された
ざっくりと切り裂かれた手は真っ赤
反対に、血に濡れていない所は真白だった
労わるようにフィールはカインの手を両の手で包み込む
すぐに痛みは消えた
ただ温かくて、そうしてくすぐったかった
心配そうに自分を見上げてくる、フィールとドロシーの存在が

「…もう、大丈夫」
大丈夫だと言いながら、フィールに手を離す様子は無い
甘えるように笑って
手を引いた
「帰ろう、父さん」
「家に帰ったら夕御飯だよ!私が作ったの」
もう片方の手はドロシーが
「……ああ、帰ろうか」
「ヴィティスも寄って行ってよ、準備は出来てるから」
「そうだな、そうしよう」


皆で肩を並べて歩くのは
ほんの少し前、微笑ましいと思った景色そのものだろう
何故だか可笑しくてカインは笑った


こんな夢なら

こんな現実なら


一生見続けていたい

そう、思う

 


END

 

□□□□□□□□□

約束通り、そらへのクリスマスプレゼント!!
カインさんメインなら何でも良いと言うのは範囲が広いぜ我が友よ!!
そんなわけでクリスマスぽくない話になりました
趣味で親子+ヴィティスで!カプ無しの予定が、そこはかとなくフィールがヴィティスを構ってる気がします
気のせい?気のせいですか?
いやあ私の書くフィールはヴィティスが大好きだからv(あははー)
カインさんの存在は、どこまでも謎ですEXモードを生きていると仮定するなら
どうやって生き返ったのかとか
その生き返った事象をカイン自身は、どう思ってるかなとか
書いていて何ですが、途中で自分が何を書きたかったのか分からなくなっちゃいました(オイ)
それでも結構張り切って一生懸命書いたので

さっくり受け取ってくれそらよ!!ハッピーメリークリスマス!!


2005、12、24

 

 

 

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