予想外ではあった

驚きもした

だけれど伝える方法が分からない

 


―心音―

 


己を組み敷く男を眺めながら、ヴィティスはしみじみと溜息をついた
幾分かは落ち着いた
珍しく、かなりの時間を消費して

今だ幼さが残るその顔は確かに己の知る人物のはずなのに
こういった時覗かせるのは見たことも無い顔だ
別人とまでは言わないが、どうも想像しがたかった
初めて顔を合わせた時
本当にフィールはただの子供で
神々の子を後ろ手に庇い、父を殺した己を睨みつけるだけだった
あの局面で泣きもせず立っていた
随分と父親の血を色濃く受け継いだのだろうと感心したのは、まだたかだか15年ほど前だったはずだ
そんな子供に
今まさに、ベットの上に組み敷かれているのだから感慨深くもなるというものだろう

「……あの…ヴィティス?」
「どうした?」
どこか脱力したようにフィールは酷く情けない顔をする
良く知るフィールの顔に少しだけホッとして、それでも無表情のまま言葉を返した
こうやってコロコロと表情を変えるあたりは
まだまだ子供だと思う
「その…焦ってとか、照れてとかは言わないけど……」
それが限りなく不可能だという事は、フィールも短くは無い付き合いで知るところだ
そもそもが言われて出来るようなものでもない
「もう少しくらい…表情変えてくれても良いんじゃない?」
普通は異性であれ同性であれ、予告もなしにイキナリ押し倒されれば
驚くくらいの反応はあってしかるべきだろう
ヴィティスも、そのくらいの理解はある
「そう言われてもな……」
淋しそうに自分を見下ろすフィールを見るのは、どことなく心が痛んだ
これ以上に無いくらい驚きはしたのだ
ただどう伝えれば良いのかよく分からない

 

「何だか、ドキドキしてるの僕だけみたい」
拗ねたような口調はフィールの好む所ではなかった
ヴィティスが嫌がっているわけじゃないのは分かっている
こうやって組み敷いている時点で許されていて受け入れられているんだろう
もし彼が本気で抵抗をするつもりなら、今頃自分は五体満足では済んでいないだろうから
分かってる
頭では分かっているつもりで
だけど……
フィールは、カタカタと緊張に震える身体をどうにか動かして
微動だにしないヴィティスに触れるだけのキスをした
お互いに目は閉じないままのキス
ヴィティスの表情はキスをする前と全く変わらないまま
いや、そもそもいつもの無表情だ
触れる瞬間、ほんの少しだけ目を伏せただけ
冷たい表情のわりには唇は温かくて
泣きたくなる

どうでもいいと、突き放されているような気がした

「分からない…から」
ヴィティスが何を思い、考えているのか
「…フィール」
表情も、視線も、声ですら感情を排除してしまったかのような冷たい響き
それだけではないと分かっていてもフィールは限りなく不安だった
一体自分に、どれほどの力があれば
この人を手に入れたと安心できるんだろう

小さな溜息の後、ヴィティスはフィ―ルの頭に手を伸ばし
髪型が乱れる事も構わずに撫でた
感触を確かめるような手つきは気持ち良かったけれど、子ども扱いをされているようで
フィ―ルは視線をそらす
そういう思考や行動事態が子供だという自覚はあっても
それが今の自分なのだからどうしようもない
そんなフィールの態度をどう思ったのか、組み敷かれた体勢のままヴィティスはフィールを抱きしめた
「う、わっ!?」
いくらヴィティスに不利な体勢であっても
体格や力においても敵わないフィールは無様に、その身体の上に倒れこむ事しかできない
力を入れていたのはほんの一瞬で
強く抱きしめるわけではなく本当にただ背中に手を乗せているだけ
気を使ってくれたんだと思った
自分が情けないことばかり言って、ヴィティスを困らせているから
フィールは胸に突っ伏したまま溜息をつこうとした
その時
「―――…え?」
ふと気づいた事があった

がばと身体を持ち上げ顔を覗き込んでみても、やはりヴィティスに表情は無い
だけれど確かに……
「…分かったか?」
「……すごく、心音がはや、い……」
ともすれば自分より

ほんの少しだけ口の端を持ち上げてヴィティスは笑う
それを笑っていると認識できるようになったのは、ここ最近のことだ
「私だとて、緊張くらいする」
「……でも……」
「驚きもした……」
「ほんと、に?」
ついと視線を外し、無表情に戻った彼は溜息混じりに言葉を続ける
「…感情を、表に出すのは……上手くない」

ヴィティスの頬に手を当て
こちらを向くよう促せば
冷えた色をした青い瞳が真っ直ぐに向けられた
もし、本当に感情を表に出すのが得意ではないだけなら
「……僕はヴィティスが好き」
一切動かない表情の下、この言葉に彼は何を思うんだろう
今度は瞳を閉じて口付けを落とした
表情が何も伝えてはくれないのなら、その体温だけを感じたかった
触れた先から伝わる温かさが心地良くて
舌先で唇を舐めた時、微かに吐き出された吐息が震えた
確かな反応が嬉しくて何度も何度も口付ける
「フィ……ん」
何かを言おうと開くかけた口を塞ぎ、開いた唇に深く口付けた
舌先に触れたヴィティスの舌は柔らかくて温かい
どうしたら気持ちがいいだなんて分からなかったけれど、その温度を感じていたくて
逃げようとする舌を捕え触れ合わせる
ぴくと肩が震え、微かにフィールの背に回された手に力がこもった
全てが瞳を開いていれば気付かないくらいの微かな反応
だけど
眩暈がするくらい嬉しくて

もっと触れたいと
漠然と思い始めた時
ヴィティスの手が、フィールの肩を押し返すように力を込めた
「ヴィ、ティス?」
身体を離し目を開けば、いつも通りの彼がいた
微かばかりの反応を返したとも思えないほど、乱れは無くて
さっきまでの事が夢なんじゃないかとすら思える
「……すまない。ガルム達を待たせてあるのを失念していた」
声も、吐息も
少しの乱れもない
むしろフィールの方が、少しばかり息を乱していた
「じゃあ、仕方ない…よね」

身体を起こし、ヴィティスを解放すると
フィールは軽く頭をかいて苦笑を浮かべ、ごめんとだけ謝った
「何故、謝る?」
「ん?あ〜…ええと、何でかな?」
待ち合わせしてるんだったら送るよと申し出れば
玄関までで良いとヴィティスは歩を進めた
「あいつらの事だ、私が動けばすぐに集まる」
「…あ」
玄関の扉をヴィティすが開きかけた時
思わず、フィールは声を上げた
「……?」
扉をほんの少し開いたまま肩越しに振り返る長身の青年に
フィールは何でもないと顔を横に振った
「用なら聞くが?」
「……もうすこしヴィティスが余裕を無くすくらい、僕が大人になれたら……聞くから」
しばし考え
ヴィティスは小さく首を縦に振り
今度こそ家を出て行った

自信なんて微塵も無いけれど
もしそうなれたなら……求めなかった答えを聞きたかった

……僕はヴィティスが好き……ねえ、ヴィティスは?

 

 


数歩、フィールの家から遠ざかった所で、すぐにジュジュとガルムが姿を現した
「あいつがヴィティスより、余裕を持てるだなんて無理じゃないのぉ?」
「小娘、盗み聞きしていたのか!?」
小さく伸びをするジュジュに小言よろしく説教を始めようとするガルムに
ジュジュは嫌そうに耳を塞いだ
「うっるさいわね!!ヴィティスの用事が終わったみたいだから来ただけよ
扉開けたまんま立ち話してる方が悪いんじゃない!!」
ほおっておけば
しばらく続きそうな二人のやり取りを間に入って制し
ヴィティスは小さな笑みを口元に乗せジュジュに一瞥をくれた

「私に余裕があると思うのか?」

質問のような響きではあった、けえどヴィティスは答えを必要とする様子も無く歩き出す


「……ねえ、さっきのどう言う意味?」
「……俺に聞くな」
置いて行かれるわけにもいかず、2人は後を追うのだった

 

 

 

 

END

 

□□□□□□□□□□

初書きOZ小説!!しかもフィール×ヴィティス!!
良いんだマイナーでも!(涙)
たぶんハッピーエンド後の話かとv
管理人一回もクリアしてないんですが、20話のEDも断章カインも友人に見せて貰いましたvv
自分でも挑戦してますが見れる気がしません(遠い目)

ちなみにヴィティスに余裕はほとんど無いかと
そもそもガルム達の事、一時的にとはいえ忘れてるくらいですから
どうせならすっかり忘れて、泊まってけば良いんだ!!!(裏だそれ)
ヴィティスは、どうしようもないくらい表情を変えるのが苦手なら良い。
んで誤解とかされるともっと良い(オイ)
ああもうヴィティスが可愛くて、どうしようも無いです(>_<)

つーか神々が居なくなった後もあいつら三人で行動してるんだろうか
しかもフィールが住む村に来てる間、ヴィティスはフィールにあってれば良いけど
他の2人って、どうやって時間を潰してるんだろう……
絶対にガルムはヌイグルミ扱いだ。子供に囲まれててんやわんやだ(あんたガルムをなんだと……)

次は暗いの書きます(笑)

でわでわ、ここまで読んでくださって有難うございました!!!

 

 

 


 

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