――波の上を吹く風――

 

 

 

 

ふわ、と二人の間を風が通り過ぎていく
潮の香りがする涼しい風だった……秋口に相応しい気持ちの良いもの

「気持ちのいい風ですねー」
「そうねぇ…」

陽が高いせいだろう、思いのほか寒くは無い浜辺をスカーレルとアティは
肩を並べて歩いていた

 

さくさくと砂が鳴きながら後をついて来るのを感じながら
アティはこっそりと微笑んだ
こうやって一緒に歩く、それだけがただ嬉しい
そう言ってしまえば
どんな顔をするんだろうと考えると自然と口元がほころんだ


寄せては帰る波の音を聞きながら
スカーレルは、アティに気付かれないように目を細めた
こうやって一緒に歩く、それだけがただ嬉しい
そう感じる自分が不思議で
どこか遠くから見つめているようで

 

 

あ。
と、声を上げ、唐突に立ち止まった少女に、スカーレルはつられて立ち止まった

「そう言えば、この近くでよい釣りの穴場を見つけたんですよ!!」
「へぇ?どうりで、ここ最近食卓が潤ってたわけねえ?」
ものすごい秘密を打ち明けるかのように、アティはふふふと笑いながら声をひそめた
「私だけの秘密なんですけどスカーレルになら教えてあげます♪」

ヒラリと目の前で白いマントがひるがえったかと思うと
軽く手をひかれた
自分の手より小さくて白い手の意外なほどの温かさに
スカーレルは小さく微笑を浮かべ、アティに導かれるまま歩を進める

 

相変わらず、砂は足元で鳴いてるし波は寄せては帰っていたけど
さっきより距離が近い
手から伝わってくる温かさが心地良くて
ゆるく握られた手を、
こちらからも、きゅうと握り返す

てくてくと前を歩く少女は振り返りはしなかったけれど
緋色の髪からちらりと覗く耳が
ほんのりと赤くなったのが見て取れた

「可愛いわねえ…センセってばv」
「な!かっ…からかわないでくださいっ……!!」
なおもアティは振り返らず、スカーレルはクスクスと笑いながら後をついて行くのだった

 


やがて、姿を現したのはゴツゴツとした岩場
白い砂の先
灰色のスポンジを所々千切って並べたかのようなイビツな岩場だ
砂の上に横たわる物もあったが
多くは海の上
その姿を見せていた
まるで、その岩を舐めるように波がその岩の下に
流れ込んで、そしてまた出ていった

浜辺に来る事は、ままあったが
ここまで来たのは初めてだったスカーレルはぐるりと辺りを見回した
「この辺りなの?」
「はいっ!えーとですね。も少し先なんですけど、スカーレルはここで見ててもらえますか?」

岩場のすぐ傍まで来た時
くるりとアティは振り返った
首を傾げる仕草で、どうしてと無言で問い掛ければ
少しだけ申し訳無さそうにニコリと笑う

「えーと、この先少し海の方に岩をつたって行くんですけど
目的の場所って、人ひとり立つくらいしか余裕無いものですから危ないんですよ
そこまで着いたら、手を振りますから待っててください」

「そうなの…分かったわ、でも落ちないように注意しなきゃ駄目よ?」
「私、何度もあそこまで行ってるんですよ〜!心配しなくても大丈夫ですって!!」

ぐっ!と拳を固めてガッツポーズを作るアティに
そういう所がまた、心配なのよねえ……とは口が裂けても言えず
曖昧な笑顔を浮かべて
スカーレルは岩をつたっていく少女にヒラヒラと手を振った


はぐれ召喚獣とのフリーバトルの時も、常々思っていたが
アティは随分と身軽だった
少し離れているんじゃないかと思わせる岩を
ただ陸を歩いているかのように、つたっていく
そのさまは、重力すら感じさせず

じわりと不安感が滲んだ

それが全く意味のなさない不安感だという事は自覚はある
まるで、この世の者ではないようだ……
などと思ってしまう己自信がおかしいのだと思う


握った手は温かかったし

前を行く少女は確かに自分と同じ時間を共有していた

 

なのに今は手元を離れて
波が撫でていく岩の上をつたうその姿は
まるで風のようだ
風に乗って、そのまま消えていくかもしれない

「アティ……」

聞こえるはずも無いのに名を呼んだ
大声で呼ぶ事もできず、小さく名を呼んで眉を寄せた
帰って来て欲しい……
秘密の場所も、特別な言葉も
彼女が隣にいなければ、意味はないのだから

少しずつ遠くなる、その姿に
思わず手を伸ばした

 

 

ばっしゃああああああんっ!!!!!!!!!

 

 

しかし手を伸ばした先に目的の人物はいなかった


「は…?」
一体、何が起こったのか
突然の出来事を頭が理解しようとせず、数秒固まる
チャプチャプと波がゆれ、さあと風が吹いた
まことに静かだ

「…………」

「……っ!!え、ちょ、アティっ!??」

注意したというのにコレなのだから……
「本当にアタシのお姫様は、よそ見してる暇をあたえてくれないんだから」
そう口にしたもののスカーレルは
どこか嬉しそうだった
彼女は風とともに消えはしなかったのだから

バランスのとりにくい岩の上を
スカーレルは一度も立ち止まる事もなく駆け抜けていく
まだ、足がつく場所だろう
飛び込んで、白い塊りに手を伸ばして引っ張り上げた
……何で足がつく場所で浮かんで来れないのよ
と思わなくは無かったが

「アティ!!大丈夫っ!??」
「え!?あれ、スカーレル……来ちゃったんですか!??」
「そりゃあ来るに決まってるでしょ!?センセったら沈んだまま浮いてこないんだもの……」
アティはしばしキョトンとしていたが合点がいったのかぽんと手を叩いた
「ああ!そうですよね!!すみません、珍しい魚がいたからつい…」

「……センセ……」

もはや溜息しか出ない

「ホントに綺麗な魚だったんですよー」
えへへと、照れ隠しに笑うアティをスカーレルは抱きしめた
とたん、真っ赤になるのが分かって意識せずとも口元に優しい笑みが浮かんだ
「魚はイイの。秋の海の水は結構冷たいんだから…ほら…こんなに身体が冷えちゃって」
「ああああ、あの!ス、スカーレル!濡れちゃいますからっ!!」
「いいじゃない。もうアタシだって充分濡れてるわ」
それに……

「こうしてると温かいじゃない?」

アティはビックリしたように紺色の双眸を見開いたが
恥ずかしそうに目を閉じてスカーレルの胸に顔をうずめ小さく頷いた


どこにも消えず、ずっとこの腕の中に閉じ込めていられれば良いのに……
そう思いながら
スカーレルはぎゅうとアティを抱きしめた

 

 

 

 

 

 

 

船に戻った後
びしょ濡れの二人を見て、ウィルにさんざん小言を食らったのは
言うまでも無い……

 

 


END

 


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9000ヒットを踏んでいただいたTOMO様へ…!!
「海でラブラブのスカアティ」……答えられてないよ…!!(セルフ突っ込み)
努力だけはしました……ラブラブって書くの難しいです(>_<)
つか、スカが別人もイイトコです…!!
もう一声!!とかおっしゃるようでしたら、心して書き直します!!
この女、どの辺くらいからラブラブなのか分かってないんですよ〜〜〜!!!

でも、頑張って書いたので
少しでも喜んでいただければ幸いです(^^)

それでは、申告・リクエストありがとうございました…!!!!
これに懲りず、また狙ってやってくださいvv

 

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