――木漏れ日――

 

 

良い日だった

空も雲も高く頭上を流れ
木々の間を撫でるように通り過ぎる風は、冷たくもなく生温くもなく
フリーバトルに行っても召喚獣の一匹さえ出現しない
誰が言い出したわけでもないのに休日ムードで
皆、思い思いにくつろいでいた

 

敵が目前に迫っている今だからこそ、英気を養うべきだと
そうもらしていたのは誰だっただろうか

 

 

 


「うーん……いませんねぇ……」
船で心当たりのある場所を全て巡り終えたアティは、困ったようにそう呟いた

カイルさんは甲板で稽古をしていた

ソノラは果樹園でオヤツを貰いに行くのだと、楽しそうに出て行ったし

ウィルくんはテコと遊んでいたし

ヤードさんは本を読んでいるところだった


結局探し人は見つからずじまい

 

船にいないとなると、この島のどこかに出かけてしまったのだろう
だとしたら見つかる可能性は、ものすごく低いような気がした
大して広くないとは言え、やはり島は島
誰かと出会うということは、さして難しくないけれど
特定の個人となれば、恐らく無理だと思える

はあ…と思わず溜息が口をついて出た


本当に気持ちの良い日だったから、一緒に散歩でもしたかったのに……
スカーレルのことだから、持ちかければ二つ返事で了解してくれる確信はあったのだ
―――……見つかれば。
もう一度アティは溜息をつき、船を後にした

「仕方ありませんよね……一人で散歩しますか……」

 

何はともあれ散歩は外せないらしい

 

 


サワサワと、木々が声を上げていた
幹を広げ、枝を広げ、まるで緑色の屋根のようにアティの頭上を覆っている
日に透かされた光は、彼女の足元をチラチラと彩りながら優しく降り注いでいた
吹く風に、気持ち良さそうにアティは微笑んだ

どこに用事があるわけでもなく

誰かに話があるわけでもない


目的もなくただ歩く
そういう散歩が、アティはとても好きだった
珍しい生き物を見つけては立ち止まり、可愛らしい花を見つけては立ち止まる

決まった目的地がなかったため、アティはいつもなら入ることのないわき道に入っていった
ほんの少しの出来心と好奇心
遠く、木々の間に咲いているあの花が悪いんですよ……と自分自身に言い訳をしながら
アティは、出来うる限り周りの植物を傷つけないように森の奥へと入り込んでいく

一つだけ

それは咲いていた

遠くにポツンと咲く花

その花は、どことなく探し人に似ていて、どうしても近くで見てみたかった

 


だが、森の奥で発見したのは遠く咲く花だけではなかった
もう少しで花に手が届くかというところで
突然森が終る

いや、終ったかのように錯覚した
自然にひらけて出来た場所なのだろう
木々に囲まれた小さな広場のような場所にアティは足を踏み込んだのだ
いつもの通り道からは決して確認できないだろう


しかし、花以外に発見したのは、この『場所』ではなく
あの『人物』

「スカーレル?」

小さな広場を形作る太い木の一つに背をあずけ、スカーレルは座っていた
両の足を無造作に投げ出し、腕を力なく下げている様子は
無防備でいつもの彼からは想像できない
「あの、スカー……」
ほんの少し近付いて、アティはスカーレルが眠っている事に気がついた
起こさないように注意しながら、そうと隣まで進み腰を下ろす
そして珍しいモノを見たとばかりに、まじまじとスカーレルの顔を見つめた

うわあ…スカーレルが眠ってる所なんて初めて見ました
船で一緒に過ごした時間は決して長くないけれど短くも無い
なのに確実に毎日スカーレルは誰よりも後に寝て、早くに起きる
もちろん昼寝をしているところなんて見たことない
だから寝顔を見たのは本当に初めてだった

白い肌に、さらりとかかる黒髪がはえていた
瞳を閉じ静かに呼吸を続けるスカーレルの表情はひどく穏やかで
起きている時とのギャップでドキリとする
こうしてみると、可愛い寝顔ですよね――……
年上の男の人に可愛いって言うのも可笑しいかなと思い、アティはクスクス笑った
スカーレルに習って、木に背をあずけ斜め上にある彼の顔をぼんやりと眺める

散歩は無理そうですけど、こんな日も良いですね……

そよそよと風が吹いて木漏れ日が揺れるのを見ながら
アティは小さく微笑した

 

 

 

それから数時間後
冷たくなりはじめた風に彼は目を開いた
チラチラと、閉じた視界で踊っていた木漏れ日の光も無く空は赤く染まっている
つい…その赤に『誰か』を連想してしまい、彼は微笑んだ

覚醒し始めた意識で
何やら自分の右肩に重みがあると認識し、スカーレルは不思議に思い見下ろした
「っ!?」
声を上げそうになって思わず空いている手で口を抑える
スヤスヤと気持ち良さそうに自分の肩にもたれ掛かり寝息を立てているのは
もしかしなくても自分が何よりも大切に思っている少女だった

……驚いた
彼女が隣にいた…という事にではない
いや、もちろんそれも充分すぎるくらいに驚きはしたが

―――……誰かがこんなに近寄ってきて、まさかアタシが目を覚まさないなんて…

その事実に、心底驚いた
まだ戦いが続くさなか、勘が鈍ったということはあるはずが無い
だが、この少女は現にこうして、人の肩を枕にして気持ち良さそうに眠っている
「よほど……気を許してるって事かしら……?」
じゃなかったら、いつも傍にいるせいでアティの気配にだけ鈍くなってるのかもしれない
クスリとスカーレルは笑った
「珊瑚の毒蛇も形無しね……」

時折、フワリと頬に彼女の赤い髪が触れるのがくすぐったくて
こちらに余りにも無防備な彼女の存在がくすぐったくて
スカーレルは、空が深い藍色に変わるまでの間に何度か声を殺して笑った


やがて星が見え始めた空を眺め、スカーレルは目を細める
「いーかげん帰らないと、カイル達に心配かけちゃうわねえ……」
気持ち良さそうに眠るアティを起こすのが忍びなくて、スカーレルは溜息をついた
いや……彼自身が名残惜しかったのかもしれない

「センセ、起きて。結構寒くなってきたから風邪ひいちゃうわよ?」
優しい声音で身体を揺すれば
んー…と声を上げ身じろぎをした――…が起きる気配は無い
……昨日夜更かしでもしたのだろうか、このコは……

「センセってば!」
「うう……あと五分……」
スカーレルは先程とは別の意味で深い溜息をついた
しばらく肩枕をしたままの状態で考え込んだ後
何かを思いついたのか、そうとアティの耳元に口を寄せた
目を細め、小さく囁く

「起きないとキスしちゃうわよ?アティ」
「うひゃああぁっ!!」

効果テキメンだったが、そこまで驚く事は無いだろうと
スカーレルは少し面白く無さそうに飛び起きたアティを見つめた
「え?え??あ、スカーレル!」
「おはよ、センセ」
ひらひらと手を振るスカーレルを認め、アティはぽんと手を叩いた
「あ…私ったら、あのまま眠っちゃったみたいですね……」
「んー…みたいねぇ?」

あああ、こんなに暗くなってるー!!
と慌てて立ち上がるアティに続き、スカーレルも立ち上がる
「すみませんスカーレル、途中から起きてたんですよね?」
「ええ♪センセの寝顔可愛かったわ〜vv」
「や、やめてください!!」

顔を真っ赤にして焦るアティを、スカーレルは楽しそうに見ていた
が、アティも今回ばかりは負けてはいなかった
フと何かを思い出したらしく、嬉しそうな笑顔を顔に浮かべる
「スカーレルの寝顔も可愛かったですよっv」
「なっ…!?」

スカーレルは言葉につまり視線をそらした

そういえば見られてるわけよね……
今まで誰にも見せた事は無いが、彼女になら、まあいいかと思う自分を感じながら
彼は歩き出した
先程の会話で「一本取ったり☆」と思っているのか
妙に嬉しそうなアティもすぐに並んだ

「そういえばセンセ、よくココが分かったわよねぇ?道からじゃ見えないでしょ?」

「それを言うならスカーレルもそうですよ。よくあんな場所見つけましたね?」

「アタシはね、花を見つけただけよ」

「花?」

「そ、センセに似た綺麗な花♪」

アティは少し驚いたようにスカーレルを見た
「もしかしてそれって――……」

 


日の光を浴びて、天に顔を向ける力強い花を見て

一輪だけで少し寂しそうに、それでも優しい花を見て


木漏れ日集まる小さな広場を二人は見つけた

 

たまにはお昼寝も良いですねと彼女が笑えば


じゃあまた二人で来ましょうかと彼が笑った

 

 

 

END

 

□□□□□□□□
6666ヒットを踏んでいただいた穂月様へ!!
「お昼寝なスカアティ」で書かせて頂きました!!!
珍しく、ハイ。大変珍しく影がない話になりました……きっと全部終わった後だろう。
と自分の中で結論付けてみましたが(笑)
予想外に書き易かったので、びっくりしました〜!!
こういう話も書けるのね!!自分!!!
でも、期待に応えられたかどうか…(汗)穂月様、よろしければ受けとてやってください(>_<)

そしてスカに一言。
「形無しというより、骨抜きって感じがするよ、スカ」

それでは、申告・リクエストありがとうございました…!!!

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