――おひさまとヘビと料理と――

 

 

 

「あの…夕御飯作るの手伝ってもらえませんか?」

「……はあ?」

 

突然の来訪者の言葉に、自分は随分間抜けな声を上げたと思う
訪ねてきてから言いにくそうにソワソワしていた彼女が
一体何を自分に言いに来たのかと、内心期待していたのを考えてみれば
至極当然の反応だ
だが、目の前に立つアティは
それをどう思ったのか、顔を赤らめて俯いてしまった

「わ…私、料理とか得意じゃなくて……でもカイルさん達楽しみにしてるから……」
「そう言えば、そうだったわねえ……」


元から長い事一緒にいる、カイル、ソノラ、スカーレルのローテーションでは
さすがに、それぞれが作る料理の傾向も分かり当然味にも飽きてくる
そうなればやはり、新顔であるアティの料理に期待するというのも仕方ない
朝食の時、カイルとソノラがそのような事を言っていたのを思い出し
スカーレルは納得する
「期待してるって言われた手前、その人物には手伝って……なんて言いにくいものね?」
カイルでもソノラでもなく、自分を頼ったのはそういうことなんだろう


「は…はい……」
小さくなって俯いてしまうアティの肩を、スカーレルは励ますように軽く叩いた
「イイわよ♪手伝ってあげるvそのかわり一つ『貸し』ねw」
ぽかんと口を開けてスカーレルを見上げたアティだったが
言われた事を理解したのか、満面の笑みを浮かべスカーレルの両手を握った

「はいっvvありがとうございます!スカーレルさん!!」

「っ!?え、ええどういたしまして」
突然の事に思考が追いつかず、スカーレルは曖昧に笑う
あまりにもすんなりと触れてきたから、手を引くことすら思いつかなかった
何か言おうと思った時には
じゃあ、さっそくお願いしますと右手を引かれて喋るタイミングを逃してしまっていた

「……なんだがらしくないわねぇ…」

まだ一緒に暮らし始めてから間もないはずなのに

意外なほど彼女の傍は心地良い

そう感じる自分があまりにも『らしく』なくて、スカーレルはこっそり苦笑をもらした
でも、こんな日もそう悪くは無いかもしれない
形の良い唇に浮かぶ笑顔を苦笑から微笑に変え、アティの後姿を追った

 

 

台所に足を踏み入れた所で、アティとスカーレルは同時に固まった
アティは完全に止まってしまい、スカーレルは額に手を持っていき溜息をつく
「最悪ね……そう言えば、朝はカイルが当番だったかしら……」

ゴチャゴチャなどと言うような可愛らしいものではなく
一瞬足を踏み入れるのも嫌になるような散らかりっぷりだ
出したものを片付けるという神経が無いのか
それとも次に作る人間の、モノを出す手間を省いたつもりなのか
今更ながらに問い詰めたくなった
前者ならまだしも、後者だったら許しがたい
まあ、どちらにしろ後で一言言っておくべきだろうとスカーレルは結論付けた
―――……恐らく手も出るだろうがカイルの事だ。クリティカルが出ても、どうという事は無いだろう


とりあえず、優先するべきは―――……


スカーレルは自分の傍らで固まったままの、料理当番を見下ろした
余程驚いたのだろう
このままほっておけば、明日になっても帰ってこないかもしれない
「センセ、固まってたら日が暮れちゃうわよ〜?」
ひらひらと手を振れば、何度か瞬き、やっとの事で彼女の目の焦点があった
「あ…スカーレルさん……」
「おかえり、センセ」
「ううう…ぼっくりしましたー。海賊って結構大雑把なんですねぇ……」
「感心してるトコ悪いんだけど、カイルを海賊の基準にするのはどうかと思うわよ?」
「じゃ、スカーレルさんみたいな?」
「それもねぇ……ま、アタシ達はアクが強いらしいから基準にはしない方が良いわ」

はあ…そうなんですか。
と、分かったような分かってないような気の無い返事を口にし
料理当番もとい、今現在掃除当番は腕まくりをした
「とりあえず片付けからですね…!」
「そゆこと。ま、乗りかかった船だもの一緒に頑張りましょ」

 

 

そして三十分後。
どうにか元の姿を取り戻した台所で、アティとスカーレルは疲れたように溜息をついた
料理を作る前にそこまで疲労してどうする。
と突っ込むものは今の所いない。
「そーれーで…センセは何を作ろうと思ってるのかしら?」
「あの、カレー……作ってみたいんです」
「カレー?」

悪くは無い、とスカーレルは思う
どれほどに料理が苦手だったとしても、失敗しにくい料理の一つだろうと思われたからだ
まあ、野菜の切り方とナベを焦がさないように見ててあげれば良いか
「そうしましょうか、確かカレー粉だったらあったと思うわ」
「はいっvv」
カレーを作るだけだというのに、実に嬉しそうに返事をするアティに
スカーレルは、また少し笑う
とりあえず夕食を作り終えるまでは退屈はしないだろう

「じゃ、早速お芋の皮をむいて……」
アティが包丁を取り出し、材料の一つであるジャガイモを手に取った所で
呆れたようにスカーレルが止めに入った
「センセ、その持ち方だと皮をむく前に自分の手をつらぬくわよ?」
「え!?えー…と、じゃあどうすれば……」
包丁の先端を真っ直ぐジャガイモに向けていたアティは
困惑したようにスカーレルを見た

貸してごらん?
そう言おうとして、スカーレルは口に出る直前でその言葉を飲み込む
浮かんだのは、ちょっとした悪戯心

「動かないでねvセンセ」
首をかしげているアティの後ろにまわり、彼女の両手に己の手をそえた
「え…!?ス、スカーレルさんっ…!?」
後ろから、ほぼ抱きしめるような格好になったので驚いたのだろう
彼女の声は随分と上ずっていて、可愛らしい事この上ない
「ホラホラ、手に力入れないのwアタシが動かすのに任せなさいな?」
「は…はい」
赤い髪からのぞく耳が赤いのに思わず吹き出してしまいそうになったが
スカーレルはどうにか耐えた
いくら生真面目なアティでも、からかわれている事に気付いてしまうと思ったからだ
本当に可愛らしい

アティの手を支えながら、するするとジャガイモの皮をむいていけば
自分の手の内で起こってる事が信じられないのか、アティは目を丸く感心したように溜息をついた
「すごい……こんな風にむけるものなんですかー……」
へええぇ…と、まじまじ眺めているアティにつられて二個目のジャガイモもむいていく
「別に大した事じゃないわよ♪このくらい」
それでも、そこまで感心されると悪い気はしない
この調子で全ての工程をこなしてしまいたくなるほどに

「さ、センセだけでやってみなさいなvアタシは他の作業をさせてもらうから」

だが、それでは彼女の為にならない

「は、はいっ!」
フリーバトルで戦っている時以上に
難しい顔をしながらジャガイモを睨んでいるアティをしばらく眺めた後
スカーレルは他の野菜に手を伸ばした


と。


ザク

「あ」


「どうしたの?センセ」
「いっ…いえいえ!!何でもないですっ!!!」
両の手を後ろに隠し、あははと何ともバツが悪そうな笑顔を浮かべるアティに
スカーレルはすぐに何があったのか察し、溜息をついた

目が離せないって事……

「センセ、隠してもダメよ。手を出して」
イタズラが見つかった子供のようにシュンとして、アティはそっと手を差し出した
親指を少し切ったのだろう、じわりと赤い血が滲んでいて痛々しい
白く、小さな手に流れる血にスカーレルは顔をしかめた
何て血が似合わない手なんだろう
「Fエイドで大丈夫なくらいね…ホラ」

指先に貼られたFエイドを申し訳無さそうに見るアティの頭をスカーレルは優しく撫でた
「次は見ててあげるわ、さ、やりましょ」
「ハイ…すみません」
頭を撫でられたのが恥ずかしいのか、それとも見られていることに照れているのか
アティは、ほんの少しだけ頬を赤らめた

 

その後、スカーレルが見ていたにもかかわらず、数度の流血ざたとなった事は想像に難くないだろう


「よくもまあ、ここ傷だらけになったものねえ…一人でさせないで良かったわ」
半分呆れ、半分感心しながらスカーレルはアティの両手を眺める
「ううう…情けないです……」
ぐつぐつと音を立てるナベの傍らで二人は話していた

「でもまあ、出来てよかったじゃない?」
「ええ、ここまで上手く出来るなんて思いませんでした…本当にスカーレルさんに頼んで良かったですv」
「ふふ、光栄だわ」
くすぐったそうにスカーレルは笑った
そんな彼を前にアティは、でも…と少し不安そうに続ける
「『貸し』ってどうやって返せば良いですか?」
「は…?」
「いえ、だから……」
「あ、あれね……そうねえ…」
正直な所、アティに言われるまでスカーレルはすっかり忘れていた
その場のノリで言ったようなものだったし
カイル達とのあいだでも一体いくつ『貸し』があるのか分からないほどだ
生真面目な彼女だからこそ、覚えていたのだろう

しばらく考えた後、スカーレルはそうだわと両手を合わせた
「今度からフリーバトルで、アタシのフォローをお願いできるかしら?」
「え…?ええ、構いませんけど…本当にそんな事で良いんですか?」
「イイのvイイのvv」


戦闘中でも彼女の顔を傍に見れるのかと思うとスカーレルは嬉しそうに笑った

まだ一緒に暮らし始めてから間もないはずなのに
意外なほど彼女の傍は心地良かったから
それに……
「飽きなさそうだしねv」

「何のお話ですか?」

「コッチの話よ、センセvじゃ、お願いするわね」
「はいっ!精一杯お手伝いさせてもらいますねv」

 

 

物語はまだ始まったばかり……

 

 

それ以降のフリーバトルおよび戦闘で
いちじるしくウィルとカイルの機嫌が悪くなったのは、また別のお話

 

 

 


END

 


□□□□□□□□

5555ヒットを踏んでくれた或野様へ!!!
「当番制の料理をスカ―レルと一緒に作るアティ」を……書いたつもりなんですが!書いたつもりなんですが!!いい具合に料理がナイガシロにされてるような気がしてならないです(滝汗)
料理当番で手伝うって事は
まだ勝手が分かってない頃なんだろうなあ…と思いましたので
ここのアティは「さん」をつけているんですね。
そんなわけで、まだそんなに仲良くは無いです…すみません(からかわれてるだけ)

コレと「貴方の左・私の右」を合わせると結構痛い感じになったりしました
この時は夢にも思わなかったんでしょうね〜
汚したくないくらい好きになるとは。

ううう…期待に少しでも応えられたのなら良いのですが……
返却可なので、新しくも一つ書いてくれ☆と言っていただければ、ホシホシと書きます(汗)

或野様、申告・リクエストありがとうございました…!!(^^)

 

 

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