どんなにひたむきに隠そうとも

否定しようとも

抗おうとも

歳を経ても

この、子供じみた感情は消すことは出来ないでいる

 


みっともない

 


そう、自分に悪態づきながらも

今日もまたその想いは自分の心のどこかに存在している

 

 

 

 

 

 

 

 

 


深層に沈む世界  −願い事−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せわしなく過ぎ去る毎日

その中を一層せわしなく動き、奔走する1人の女性がいた

紅い髪を宙に舞わせ

その名を呼ばれるたびに、耳障りのよい声で、綺麗な笑顔で答えていく

 


まったく、不思議なものだわ…

 


船の縁に肘を付き、半身を預け

ちょうど船から降りて走り去っていく彼女の姿を見つめながら

一人の男は自嘲気味な笑顔を灯し、心の中で呟いた

 


「スカーレル、何を見ているのですか?」

そんな彼に穏やかな声色の男が話しかける

振り向かずとも、彼にはそれが誰のものか分かっていた

だから振り向かず

視線はどんどん小さく、彼の視界から消え去っていく彼女を見つめながら答える

「…あら、ヤードじゃない。アンタこそ暇なのかしら?」

「酷い言い方ですね…おや?あれはアティさん」

彼の瞳もまた、彼女を映す

「不思議なものじゃない?この船に、島に一番遅くに来た彼女が…いつの間にか全ての中心。頼りにされているんだから」

「そういえばそうですね…確かに不思議ですが、彼女らしいじゃないですか」

クスクスと笑い声を漏らしながら

だけどどこか慈しむかのような顔で言う彼の言葉

それは紛れもなく、彼自身の中にも彼女が居るという証拠

「まぁ、ね」

歯切れの悪い返事をし、スカーレルは船縁から身体を引き離し、踵を返し

その場を立ち去った

どこに行くのですか?という、後ろから聞こえてきたヤードの声に手を振ることで答え

決して振り向かずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船を降り、スカーレルはそのままフラフラとさ迷い歩き

森へと入る

そこは適度に生い茂る木の葉によって採光が弱められていて、落ち着きを与えてくれる

尚も歩き、歩き

とある1つの大木にスカーレルは背を預け、腰を落ち着ける

見上げると葉に反射した碧の光

柔らかい光

それすらも拒絶するかのように、スカーレルは瞳を伏せた

瞼に覆われた視界は黒

だが、その中に1人の人物の姿浮かび上がってくる…

 


それは先程の女性、アティだった

 

 

 

 


気付けば大きくなってしまっていた彼女と言う存在

彼らの中で

皆の中で

自分の中で…

 


それと同時に、浮上してくる1つの感情

 


醜く

浅ましい感情

 

 

 

 


「違う…違うわ…………」

それを感じ取った途端

スカーレルは呟くように、呻くように何度も言葉を吐き出す

それと同時に頭を左右に激しく振った

責め上がってくるその感情を否定したくて

 

 

 

 


乱さないで

 

これ以上、アタシの中に入ってこないで

 

お願いだから

 

お願い、だから…

 

そうじゃないと

 

アタシは…………

 

 

 

 


パタッ…

 


碧の絨毯のような草の上

力尽きたようにスカーレルは倒れこんだ……

 

 

 

 

 

 

 

その感情の名は、きっと『嫉妬』なのだろう

太陽がよく似合い、太陽の香りを纏い、太陽のように皆を照らし

自分にないものを持っている彼女

純粋で、穢れを知らない彼女

羨ましいんだ

自分には求めても手に入らないから

 

 

だから嫉妬するんだ

だから目で追ってしまうんだ

だから、こんなに苦しいんだ

だから

 

だからこんなに壊したくなってしまうんだ…

 

 

暗い、暗い心の底に鎮めたはずの『自分』が出てくる

あまりにも眩しいあの人に反応して

真逆に位置してしまう、過去の汚い『自分』

だけど

それは自分自身

アタシ自身

孤独を生きるために

孤独に殺されないために築き上げ

隠しきれない、否、消すことは出来ない刻印のように刻まれた

 

『アタシ』…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……………?」

自分の呻き声に驚き、スカーレルは瞳を開く

まさか意識を失っていたとは思っていなかった彼は一瞬、自分が何処にいるのかわからなく

ちょっとだけ混乱する、が

覚醒しきれないおぼろげな視界に入ってくる無数の緑色の草たちの存在に気付き

思い出した

だが、同時に違和感を感じる

それは倒れているのは草の上のはずなのに視界が少し高い

さらには、頬に触れてる部分が妙に暖かく柔らかい

 


おかしい…

 


これはおかしい、と思っていると、その疑問に終止符を告げることが起きる

「あ、起きられましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

時が止まったように感じた

実際に止まったのはスカーレルの脳内の思考、しかも数秒の間なのだが

酷く長い時間のように彼には感じられた

 

 

 

 

 

 

 

「せっ、センセ!!!?」

「わっ!ダメですよ!!急に起きられては身体に悪いです!」

思わずガバっと身を起こそうとするスカーレル

だが、それはアティの咄嗟の行動によって阻止されてしまい

スカーレルはまた頭をアティの膝に預ける形になった

「あ、あの…センセ?」

「なんですか?」

「これは一体どういった状況なのかしら…??」

軽く嫌な汗を顔に浮かび上がらせながら、震えそうな声を抑えスカーレルは問う

アティはにこにこと笑顔で答えた

「スカーレルがこんなところで寝ていたので、僭越ながら膝枕をしていたのです」

「いえ、寝てたわけじゃないんだけど…」

「最近戦い続きでしたし…スカーレル、疲れてるのではないですか?」

「あっと、えっと…」

「だから、せめてこの時くらいはゆっくり休んでください!」

 


余計に落ち着かないわ!!!!!!

 


そんな叫びが咽から飛び出しそうだったが、根気でスカーレルは押さえ込んだ

言ったところでどうにかなりそうな気がしなかったからと

アティはこういう時に特に頑固なのだからだ

それに……スカーレルはまともに彼女の顔が見れなかった

先程までぐるぐると渦巻いていた感情やらなにやらのせいなのだろう

そんな彼に気付くはずもないアティは

にこにことした笑みのまま、その手でスカーレルの髪を梳いたり

子守唄を口ずさんでいた

 


段々とスカーレルの思考も落ち着きを取り戻す

優しい光が降りそそぐ森で、優しい彼女に包まれながら静かに唯、いる

そして懐かしい子守唄と、母親を連想させるアティの仕草

もう、遥か遠い、しかもほぼ消え去った記憶の中の母の感触が思い出される

不思議な感覚がスカーレルを纏いつき始めていた

「…スカーレル」

「ん?なに??センセ」

 


「スカーレルはもう一人じゃないんですから…もう少し。私たちを頼ってくださいね?」

 


彼女に紡がれた言葉に驚き、半身を持ち上げてスカーレルは視界にアティを写す

蒼い澄んだ瞳は真っ直ぐ彼の瞳に入ってくる

優しく、でも力強く微笑んでいるアティ

ね?と、もう一度確認をとるように首を傾げる

 

 

 

 

 

 


あぁ…そうか………

アタシが、みんながこんなにも彼女に惹かれるのは

彼女は言って欲しい言葉を言って欲しい時に言ってくれるから

抱き絞めて欲しい時に抱きしめてくれるから

聖母のように

優しく、包んでくれるから

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、そうね……センセ、ありがとう」

目を細め、彼がお礼を言うと

アティは至極嬉しそうに笑い、どういたしまして!と元気よく言った

眩しい笑顔で…

 

 

 

 

 

 

 


これは

アティという女性に抱くこの感情は『嫉妬』ではない

とてもよく似ていて

でも相違なるもの

 


『恋心』

 


だから

好きだから

自分の中で彼女と言う存在はひどく大きな物になって

だからひどく乱されるんだ

だから求めてしまうんだ

だから嫉妬しちゃうんだ

だから目で追ってしまうんだ

だから苦しいんだ

 

だから壊したく、なってしまうんだ…

 

 

 

 

 

 

 

「さて、センセ。そろそろ帰りましょうか?」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


歪んだ自分の愛情に苦笑しながらも

目の前を歩いていく紅い髪の女性がこれからもずっと幸せでいられるよう

願わずにはいられなかった

だから

自分は傍らにいてはいけない、そう、いてはいけないんだ

だから

今、この島で起きている事に決着が付いたらアタシは船を降りよう

彼女から離れて遠くに行こう

愛しい彼女を傷つけたくないから

 


壊したく、ないから…

 

護りたいから…

 

 

その代わりに

今、この島にいる間だけは彼女の傍にいさせて

この手で、触れさせて…

 

 

 

 


それが、わがままな願いだとしても

 

 

□□□□□□
穂月さんからHP再開を祝っていただき、こんな小説を頂きました〜vv
スカーレルの悩みっぷりがツボです!悩んで考えて、そうして自分の出した答えは
相手の感情を視野には入れていない感じは理想ですとも…!
すれ違いまくりな二人が大好きです!!
そういうシリアスな部分に惹かれながらも
「余計落ち着かないわ!」というスカさんにも大うけです。
でも表情には出ないのでしょうなあ(愛)

うう、こんな素敵な小説もらえるだなんて…HP再開して良かったなあ……と思ってみたりしました(^^)

穂月さんほんとうにありがとうございました!!!!










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送