夢を見るのだ

それは酷く冷たくて悲しいもの

身すら引き裂く刃を秘めた、現実感の無い夢

ただそれは

いつか起こる事と思えるから刃はこの身を切り裂くのか

 

 

『無い空に吹く風』

 


そこは戦場だった
己の指揮する部隊の奥、薄水色の髪をかき上げて彼は笑った
儚くて、どこまでも哀しい微笑
「いつか来るとは思っていたけれどね……」
自分達が撃破するべきは、たったの四人
しかし彼らはその人数で無敗を誇るのだから油断は出来ない

「どうでますか?大佐!」
部下に声をかけられ、大佐と呼ばれた青年は静かに指示を下した
包囲して、せん滅せよ……と

動き出す部下を眺めながら、ふと己の敵を今一度視界に入れる
遠く、黒を身にまとった真紅の髪の敵指揮官と目が合ったような気がして強く目を閉じた
見ていれば逃げ出したくなりそうだ、そう思えたから
いつからか何かに縛られて
捨てられないほどの多くの責任を負って
逃げ出せなくなっていた

小さく詠唱を紡ぎだす、それが終盤に差し掛かった頃
彼が目の前に現れた

「―――っ……ルーミスっ…!」
「久しいね、クレヴァニール君」

懐かしい声に泣いてしまえれば良いのに

全ての敵をすり抜けてここまで来たのだろう、クレヴァニールの身体は傷だらけで痛々しいほどだった
「頼むから、兵を引いてくれ」
肩で息をして、苦しそうに彼は言う
それが身体的苦痛のためではないと理解できて、余計に逃げ出したくなった

己の身を縛るもの全てから
そう出来るのなら、ねえ?僕らはどんなに楽だろう
「無理だよ、君だって分かっているはずだ」

君は優しいから――……

「君は、君を信じる者達の期待は裏切れない」

僕も、自分の部下や信じる人達を捨てられない…答えは決まっている

「多すぎるんだよ…多くなりすぎた。僕らは今更捨てられるような責任を負ってるんじゃないだろ?」
だから勝つためにクレヴァニール君を消さなくてはならない
今の状態の彼なら、たった今発動させられる魔法でも仕留められるのは分かっている
――――……でも

「ルー…ミス、俺…は」
「黙っていてくれるかい?もう少しで詠唱が終るんだ。どうせなら被害を少なくしたいからね」
僕の術で、確実に君達を消してしまえる……


でも

だけれど


そんな事、出来るはずが無いから

 

君の剣で終らせて欲しい
そんな方法でしか君に道を譲ってやれない僕をどうか許して
泣きながら、君は剣を振り上げた
そう、そうして仲間の命を守ってやって
君の事だから、僕の部下にも寛大であってくれるだろう


ねえ?本当に今さらだけど、僕は君の傍に居たかった

 

 


――――――

 

 

そこは戦場だった
いつか見た夢が現実になったのか、これもまた夢なのか
どちらも嫌だけれど、どうせなら後者が良い

クレヴァニールは浅く息を吐き剣を抜いた
「オイ、本当にやるのか?リーダー」
心配そうなヴァレリーに軽く笑ってみせる

ここを通らなければ目的は果たせない
何があっても成功させなくてはいけない事だった
敵部隊を指揮するのは懐かしい人
忘れた事など一度としてない人

「俺が先攻する!皆はその場で応戦っ!!」

どうせなら戦場では仲間でありたかったのに
切りかかってくる全ての敵をやり過ごし、ルーミスの前に立った
指揮官同士の戦い、どちらかが負ければ、その時点で勝敗は決まるようなものだ
お前も、そう思っているのか?

「―――っ……ルーミスっ…!」
「久しいね、クレヴァニール君」
泣いているのかと勘違いしたくなるような笑顔だった
抱きしめてしまえればいい

「頼むから、兵を引いてくれ」
そうすれば貴方と戦わなくて済むのだから
本当は武器を構える事すら辛い

「無理だよ、君だって分かっているはずだ」

静かに紡がれる言葉は、自分でショックを受けるほどに予想通りで笑えすらしない
真面目で優しい貴方は何かを蔑ろに出来るはずもなく

「君は、君を信じる者達の期待は裏切れない」

俺は、そんな貴方が好きだった

「多すぎるんだよ…多くなりすぎた。僕らは今更捨てられるような責任を負ってるんじゃないだろ?」
いつからか身を縛る全てを無視できなくなっていた
己の信じる道を進むためには、ルーミスを殺すしかない事も理解できた
―――――…そんな運命なんて信じたくもない

「ルー…ミス、俺…は」

何よりも貴方が大事なのに

「黙っていてくれるかい?もう少しで詠唱が終るんだ。どうせなら被害を少なくしたいからね」
暗に、言おうとしている事が分かり涙が出た

もう少し時間をやるから、被害を少なくするためにも自分を切ろと…彼は言うのだ
伝う涙を拭う事もせず剣を振り上げる

どうせなら、早く詠唱なんて終らせて俺を消して欲しい
切る事なんて出来はしないんだから


叶う事のない願いでも、俺は貴方の傍に居たかった

 

 

――――――

 

 

これは夢なのか、現実なのか

分からぬまま彼は倒れた男を見下ろした

背負うモノの大きさに、今さらながらに吐き気がする

昔、出逢った頃なら自分は間違いなく彼の傍に居た

自分達はあの頃が一番自由だったねと

酷く哀しく彼は笑った

 


おかしな話


縛るモノと背負うモノ、捨てられぬその全て

何より大切な者と引き替えにしても

守るべきものなのか

 


END

 

 

□□□□□□□
言い訳するなら、とりあえずコレ書いた時点で、ルーミスが敵に回るとは思ってませんでした
いや立場的には敵という位置にいましたけど
この時はてっきり味方になるものだと思ってて、妹と一緒に
敵で出てきて戦う事になったら凄いよね〜!!と無邪気に話してた時に
遊びで書いたシロモノです(涙)

おかげで召喚術だとか民主主義だとかの描写は皆無ですね
でも良く書いたと思います
実際のルーミス戦でも、こんな状況でしたし
バウアーの脇をすり抜けクレヴァニールがダッシュでルーミスの所に行きました
……ある程度近付いた時点で和平の会話発生しても良いのにさあ(ぐすぐす)

これは結局どちらが死んだのかは分かんない感じで書いたつもりです
妹にはクレでしょ?最後残ったの。とか言われましたが、心意気はまあそんな感じです
死にネタは今書くと半端なく凹むのでたぶん書かないでしょう


では、ここまで読んでくださってありがとうございました!!!


2004、11、28脱稿

 

 

 

 

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