ぽたり  ぽたり

意識がひどく緩慢に浮上する感覚

ぽたり ぽたり

顔をうつ水滴の感触に
ようやっと気付くほど……全ての感覚が鈍い

それでも
起きろと促すように降り続ける水滴に、元親はどうにか重い瞼を持ち上げた
最初に目に入ったのは深い緑
そして自分を覗き込むように見下ろしている―――……

「……みつ、なり」
「――…やっと起きたのか、長曾我部」

三成の瞳は力無げに揺れていた
澄んだ琥珀色の眼差しに過ぎるのは安堵であるはずだが、不安そうでもある
思わず元親は笑う
身体は所々傷んだが、安心させようとワザと声を上げて

ぽたり…と落ちる水に

「んだよ、泣いてんのかぁ?」

そう穏やかに問えば、驚いたのだろう一瞬だけ三成は息を飲み
すぐに何時も通りの不機嫌そうな顔をする
「馬鹿か!雨だ、先程から降り始めた」
「はっは、そうかい」
耳にとどく雨音、湿気を含んだ空気の香り、それが分からないわけでは無かった
そもそもこんな事にも気付けないようでは海の男なぞやっていられない

木陰らしいここには雨は降り注がないが
雨にうたれでもしたのか、三成の髪はしっとりと水を含み雫を落とす
それが自分を覚醒させたのだ

わざわざ違うと分かっていて軽口を叩いた目的は一つ
「ふざけた事をほざく元気があるなら、早々に起きろ長曾我部!!」
何時もの調子に戻ったらしい三成に元親は満足そうに笑う
「へいへい…」
またあんな顔をさせるのは忍びなくて
上手く力の入らない腕で、半ば無理矢理に身体を起こせばギシリと身体が軋んだ
霞む目を何度か瞬いて状況を整理しようと辺りを見回す

折れた旗、死体、そして雨に掻き消されそうな火薬と血の香り
自分の身体にも所々包帯が巻かれ
簡易的とは言え、手当てしたのが見て取れる

ああそうかここは戦場

そして……確か自分は戦っていたはずだ

だが不気味なくらい静かだった
敵も味方も居らず、声も、銃声も、武器同士がたてる金属音もしない
雨にけぶる景色に聞こえるのは雨音のみ

「戦は終わったのか……?」
「いや、まだだ」
三成は顔を上げ、敵本陣があるはずの方角を見やる
「ここは制圧した。今頃なら本陣を落としにかかる頃合だろう」
「はあ!?」

思わず声が出た
だってそうだろう
あの三成が、今だ敵がいるってのに大人しくここにいるはずがないのだ
どれだけ諭そうと、止めようと
物凄い速さで敵陣の只中へ斬り込み、全てを残滅するまで振り返ることすらしない凶王
そんな彼が、何故

「三成……何で、ここに?まだ敵は――……」

呆然としたまま零れた素直な疑問
それに、三成は何を言い出すのだと言いたげに目を細めた
「貴様を捨てて行けるか」
真剣に詰め寄ってくる三成を見つめる元親の口元に、堪えきれぬ笑みが浮かぶ

「私の背は貴様に任せたのだ、忘れるな長曾我部」
「…おう、ありがとな」

手を伸ばし触れた髪は濡れていて、撫でれば冷たい雨の感触がした
それでも温かいと思う
すぐに「触るな」と振り払われたが
それでも嬉しくて嬉しくて緩む口元を止められない

労わるわけではなく
優しい言葉をかけるでもない
だけれど三成の不器用な優しさは、どんな言葉よりも愛しく心に染みる
傍に居れば居るほど何故彼が凶王と恐れられるのか分からない

「もう無理はするな。これ以上の無様は許可しない」
「ああ気をつけらぁ!またあんたを泣かせるわけにはいかねぇしな!」
「なッ…!?き、貴様!人の話を聞いていないのか!?雨だと言ったろう!!!」
「お。そうだっけか?悪ぃ悪ぃ」
愉快そうに笑う元親に、からかわれたと気付いたのか腹立たしげに三成は立ち上がり刀を握る
怒りのためかそれとも別の理由があるのか、頬が微かに赤かった

「ッッ…!無駄口はもういい!立て!!早々にこの戦を終わらせるぞ!!」
「はいよ…っと」

痛む身体に、ほんの微か元親は眉を寄せたがそれだけだ
万全とはいかないまでも気絶している間休息はしていたはずだし、手当てだってされている
本陣を落とす間くらいは全力で戦えるはずだ
いや、戦わなくては
この凶王様の背後を守るのは、ありがたい事に自分の特権なのだから

まだ軋む身体を持ち上げようとした時
す。と目の前に手を差し出され、元親は驚きその手の持ち主を見上げた

「どうした、立て」

同盟がなった時こちらが伸ばした手を取らなかったのは彼の方だった
だが今は手をとれと、何の事もないように彼はそう言う

「…………」

何かを言おうとした
だけれど気の利いた台詞なんて結局は浮かばず
余り感情の浮かばない瞳を見つめたまま、元親は満面の笑みを浮かべた
そうして自分よりかは随分と細いその手を取り
ゆっくりと立ち上がる

「よし…。いけるか、長曾我部」
「当然よ!俺を誰だと思ってやがる!」

傍らに置かれていた碇槍を持ち上げ、不敵に笑って見せれば
三成も微かに笑ったようだった

 

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「救援求ム」の仲間武将の傍にぼんやり佇んでるのって、何か休憩してるように見えなくもないです
特に周りの敵を排除してると平和過ぎて和む
三成を泣かせてみたいと思いつつ、なかなか泣かない男だろうなあ……と思うわけで雨を降らせてみたよ!!なネタです
……すみませぬ実は家康の忠勝に対する
「無理をするとワシが泣くぞ!」の台詞を三成がアニキに言えばいい、言えばいいのに
と本気で思ってただけなんです実は…!
そっけなくしながら、実はすごい心配してたら凄い楽しい



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