―鏡裏―

 

斬るなら斬れ

そう冷たく言い放つ毛利元就を睨みつけたまま三成は憎々しげに柄から手を離した

家康を相手にする為に仕方ないと
自身に言い聞かせても
腹立たしさが無くなる事はなく、ギリリと歯を鳴らす

殺意を滲ませる三成に
相棒として付き従っていた元親は碇槍を肩に背負い
何の事もないかのように声をかけた

「終わりか?なら休もうぜ三成」
「…長曽我部……」
「背後の心配がないのは良いことだろうが、辛気くせえ顔すんなよ」

浮かべる笑顔は相変わらず緊張感の無い親しげなモノ
どれほど鋭利な殺意をその背に感じようとも、出会った時と同じように元親は三成に接する

「………分かった」

雑兵のように、怯え何も言わぬか
刑部のように、三成を尊重し何も言わぬか

そのどちらでもない元親の言葉には
存外、三成は素直に従った

その時になり初めて元就は三成の背後に佇む元親を見た

「……西海の鬼神も石田についたか」

何の感慨も含まぬ声だった
分かっていた……と言い出しそうなほどに

氷と称される顔には微塵の表情も浮かばせず
眼差しに過ぎる感情もない
もし、彼が喋らず動かなかったのなら
出来の良すぎる人形だとでも思いたくなるほどに、何をも彼は表さない

口にする言葉もなく
彼はただ自分の方を見つめてくる、それをどう思ったのか

「……久しぶりだな、毛利」

静かに、元親は声をかけた

そこには三成に向けられたような親愛の情はない

中国と四国
長い間敵同士としていがみ合ってきたのだから、仕方ないといえば仕方ないのだろう
瀬戸内を挟み並び立つ国同士故なのか
互いを認められないからなのか
争いは収まる事は無かった
それでも互いの顔を知る程度の知り合いではある

「あー…一応、よろしくな」
「…………」

とりあえずは西軍にお互いが身を置く事になったのだからと向けた挨拶に
元就は応えず背を向けた
「同盟は了承した。用が無ければ去れ」
とだけ三成に告げ
今だ血の臭いが漂う舞台を後にする

元親としても別に返事を期待したわけではなかったのだろう、すぐにその背中から視線を外した
「…んじゃ帰って休むか!」
そう殊更に明るく元親は笑う
だが、三成は元就から視線を外さぬまま静かに問うた

「あれが貴様の“知り合い”か?」

向けられた素直な疑問に
彼は微かに驚き、そうして笑みを苦笑にすり替え頷く

「……ああ、そうだ。よく気付いたな」
「貴様があの時と同じ顔をしているからだ」
苦笑が深くなり
困ったように元親は頭を乱暴に掻いた
「どんな顔だよ、そりゃあ」
「………口で説明するのは難しい」

変な顔。というのが一番しっくりはくるのだが

淋しい、ような

悲しい、ような

苦しい、ような

仲間を悼む時とも違う
不思議な目を、元親は“知り合い”に向けるのだ
どんな感情が根底にあれば
あんな顔が出来るのか
三成には理解が出来なかった。故に、説明のしようもない

「酒にさそわないのか」
「んあ?」
「一応、同盟だ。毛利とは飲まないのか」

元親は笑う

「アイツは飲まねえよ」
「下戸か?」
「さあな、だが俺とは合わねえからな。酒がまずくなるだろお互いに」

三成は元親と肩を並べ歩きながら、心の内で考える

不思議な奴らだ、と

元就の目前に立ち
刃を合わせる直前に、彼が見ていたのは三成ではない
三成の背後を守る鬼を彼は見ていた

元親が元就に向けるものと同じ、複雑さを孕む不思議な眼差しで

同じモノを抱えているようにしか見えぬのに

お互いに背を向ける

それは不自然であるように見えるが
狂った戦乱の世では、もしかしたら自然な事なのか

「……長曾我部」
「何だ?三成」
「酒だが、私で良ければ付き合おう」
「お、嬉しい事言ってくれるじゃねえか。あんたでも飲みやすいヤツ探してくるぜ」
「ああ」

ただ

いくら不自然でも
いくら自然でも

失えば戻らない
奪われれば戻らない

今こうやって穏やかに、それでいてどこか悲しそうに笑う鬼が
それを喪わなければいい

らしくもなく三成はそう思った

END

 

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バサラ3をやって突発的に書いた小話その2。これもプレイ初日で書いた気が(汗)
三成赤ルートでアニキを協力武将に毛利さんに会いに行った時です!
もはや三成が普通に良い人になっていてどうしよう私。
アニキには懐いてる三成が好きです!と言い訳にならない言い訳をしてみます
瀬戸内と三成でグラグラしてた頃合ですね(初日プレイでグラグラするとか……)

 

 

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